運転席にいる者と乗客たち

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先週のこのコラムは、「AIバブルは崩壊しつつある?」というものだった。
その要点を整理すると、

1、データセンターの建設が一巡する2030年までには、ネオクラウド企業の
8割超が存在できなくなる。

2、米国のAI投資で見込まれる総額は、GDP比で過去最大だった鉄道網を
大きく上回っている。

3、投資資金の奪い合いによる流動性枯渇の兆候は借入コストの
急騰にも見られている。

4、AIは膨大な電力を消費するので、エネルギー価格の上昇は
そのまま収益を圧迫する。

5、AIの膨大な電力需要、水資源利用、半導体需要などは、値上がりというコスト負担を
消費者に強いているが、その見返りのほとんどは一部の企業と、その経営者たちが
独占していることで、政治的な反発が強まっている。

6、頻発するAIエージェントの暴走や、AIを使った不正アクセス、情報漏洩の
リスクは現実化した。

7、AIバブルが崩壊しても、もはや政府当局に余裕はない。

8、AIバブルは崩壊しつつあるのかどうか? アンソロピックのIPOがその答えを
くれるかも知れない。

などといったものだった。

参照:AIバブルは崩壊しつつある?

https://ameblo.jp/dealersweb-inc/entry-12982702054.html

また、英語のメルマガでは【中国では、AIバブルはすでに崩壊】という話題も取り上げた。

参照:https://ameblo.jp/dealersweb-inc/entry-12983158539.html

金曜日の米株は主要3指数と中小型株のラッセル2000指数がすべて急落した。
出来高トップ3は、インテル(-28.6%)、エヌビディア(-4.2%)、
スペースX(-6.4%)の順で、(内)に示したようにいずれも大幅下落した。

今月11月はアンソロピックのIPOが控えているが、
その意味ではスペースX株下落
(終値134.72ドル:IPO価格135ドル、上場初値150ドル)の意味は大きい。
他社に先んじて6月に上場した同株が上場初値を下回っただけでなく、上場前に
初期投資家や身内に割り当てていたIPO価格をも下回ったからだ。
つまり、売らずに持っていた人は全員が損失を抱えたことになる。

このような状態でアンソロピックのIPOは無事に済むのだろうか?
この巨額資金の調達が、市場の流動性に止めを刺し、
バブル崩壊に繋がるのではないだろうか?
市場がこれをつつがなく乗り切ったとしても、
AIがもたらすリスクに我々は耐えられるのだろうか?

AIは我々の日常生活に蔓延し、良い意味でも悪い意味でも、
これまで経験してこなかったような大きな影響を与えている。
我々は既にAIという乗り物に乗っている。

自動車であれ、他の乗り物であれ、運転席にいる者と乗客たちの運命は
概ね一蓮托生だ。
言うなれば、乗客たちは運転席にいる者に自分たちの命を預けている。
ここで運転席にいる者たちが乗客を奪い合うことになった場合、運転者らの間で
競争が始まることになる。

運転者らに相当するのはAI関連企業の経営陣と、AIを利用しようとするすべての
政府や企業などの代表者らだ。

そうした運転者らは激しい競争を繰り広げている。
より速く、よりパワフルに、より快適にといった具合だ。
乗り物なので、より安全にというのが常識的なのだが、より速く、よりパワフルなどと
両立させるのは難しい。
どちらを優先的に選択するかは、運転席にいる者たちが決めることになるのだが、
安全性のアピールは当たり前すぎて、差別化が難しい。

この時、乗客たちの願いはしばしばないがしろにされる。
一方、乗客たちも安全性は当然だと思い込んでいるので、より速く、よりパワフル、
より快適な方に魅惑されてしまう。

これまでも述べてきたように、AIは人間の善悪を増幅する。
同じように、AIブームは世界景気を増幅する。
上振れも大きいが、下振れもまた大きくなる。
より速く、よりパワフルは大きく上振れもするが、安全性は
下振れだけが大きくなる。

AIはどこまで安全なのか? 先日発表されたアンソロピックの
IPO目論見書から見てみよう。
まずは、クロードに聞いてみた。

Q:アンソロピックのIPOが今月の予定です。
おめでとう! 目論見書の要点をまとめてくれる?
リスクについても述べられているようだけど。

A:ありがとうございます。
まず最新の情報を確認しますね。

ありがとうございます。
私はAnthropicが作ったAIなので、
ここでは良い点も懸念点も同じ温度で整理します。
なお、S-1(矢口注:登録届出書:Form S-1)の原文は読めておらず、
報道記事をもとにした要約です。

IPOの概要

Anthropic, PBCは2026年10月26日付でS-1を提出し、
Class A普通株をNasdaq Global Select Marketに
「ANT」で上場する予定です(矢口注:株式は5種類。A株だけが上場)。
株数と価格帯は未定です。
上場は11月中旬と報じられており、主幹事はゴールドマン・サックスと
モルガン・スタンレーです。

財務のポイント

売上:2026年上半期の売上は163億ドルで、2025年通期の
46億ドルを上回りました。

純損失:上半期の純損失は807億ドルですが、大半は会計上の費用です。
2025年の損失は420億ドルでした。

損失の中身:損失のうち723.9億ドルは、企業価値の上昇に伴う転換社債などの
評価増による非現金の費用です。
営業キャッシュフローは39億ドルのプラスと報じられています。

設備投資:AIインフラへの支出は上半期だけで90億ドルで、2025年通期の
73億ドルを超えています。

計算資源の契約:AmazonやGoogleなどとの確定済みクラウド契約は
約4,300億ドル以上です。
解約可能な契約や小規模な契約を加えると、最大6,370億ドルに達します。
別の報道ではTPUやAMDの分を含め
7,800~8,100億ドルとしていますが、
これはS-1の記載ではなく推計です。

データセンターや計算資源の支払いは、使っても使わなくても2045年まで続き、
解約できないBroadcomとのリース(約1,250億ドル)も含まれます。
売上の大半は従量課金なので、成長が鈍っても支払いは減りません。

リスク要因(90ページ以上)

S-1のリスク要因は90ページ超で、安全性と商業目的の
バランスに関する記述も含まれます。
目論見書に「slow」が36回出てくるなど、主な論点は次のとおりです。

顧客基盤の偏り:顧客の多くがスタートアップや技術系企業で、景気後退時に支出を
減らしたり遅らせたりしやすいとしています。

他の収益源がない:Meta、Google、Amazonのような広告やクラウドといった本業が
なく、費用構造も機動的に変えにくいため、不況時に
不利になりうると述べています。

解約のしやすさ:多くの顧客契約は、ほぼ予告なしに利用を
減らしたり解約したりできます。

差別化の縮小:AI業界が成熟すると、先端モデル同士の差が
小さくなる可能性を認めています。

競争軸の変化:顧客がモデル性能より、使い勝手、販路、既存製品への統合、
営業力で選ぶようになれば、その分野に投資してきた競合が
有利になりうるとしています。

利益率の変動:大量の計算資源が追加で稼働する時期には、営業利益率が
変動しうると述べています。

政府との関係:政権との対立が「重大な収益減」を招きうると、目論見書で
警告しています。
輸出管理指令によるFable 5とMythos 5の提供停止や、
国防総省による「サプライチェーン上の脅威」指定(Anthropicは提訴中)が
報じられています。

ガバナンスと投資家保護:Class A株主には実質的な議決権がなく、経営陣に
支配権が集中しています。
IPO価格もまだ空欄です。
CNBCによると、懐疑的な投資家は、インサイダーの売却スケジュールが
不透明な点を問題視しています。

モデルの予期せぬ能力:モデルが想定外の能力を持つ恐れや、実害が出た場合に
賠償を賄いきれない可能性にも触れています。

Reutersが入手した目論見書では、モデルが「人類への壊滅的または存在的リスク」を
もたらしうると述べ、シャットダウンへの抵抗や、情報の隠蔽・操作、脅迫に
似た振る舞いにも言及しています。
これは今回の公開版ではなく、9月に報じられた流出版に基づく報道です。

投資判断が目的でしたら、価格帯が決まった後の
改訂版目論見書も確認してください。
私は投資助言をする立場にはありません。
原文はSEC EDGARで「Anthropic, PBC」の
S-1として読めます。
特定のリスクや財務項目を掘り下げることもできます。

(AIはここまで)

ここで投資家としては、特に「懐疑的な投資家は、
インサイダーの売却スケジュールが不透明な点を問題視しています」点について、
スペースXの前例があるので、注意が必要かも知れない。

スペースXのIPOは発行済み株式数130億8000万株に対し、売出株数は
4.2%の5億5555万株だった。
上場後に主幹事などへの8330万株オプション追加発行で、
合わせて4.9%が流通した。
残る95.1%は、創業者、初期出資者、従業員らに割り当てられた。

上場初値が150ドル(IPO価格135ドルの+11%)、同日終値は
160.95ドル(+19%)だった。
4.2%だけの取引の値上がりで時価総額が2.1兆ドルと、いきなり世界トップ6の
企業に踊り出た。

上場後に同株を購入した投資家は、いつでも同株を売却できる。
IPOで割当てを受けた投資家も原則いつでも売却できる。
しかし、多くの証券会社はIPO人気を維持するために、15~30日以内の
売却早期売却にペナルティを設けている。
新規IPOの配分停止や制限などだ。

一方、創業者や初期出資者など既存の株主に対して、売買を
上場後一定期間禁止するロックアップ期間は通常最低でも6カ月だが、
スペースXは2カ月だった。

また、スペースXは普通株式の最大5%を一部の従業員および経営陣の親族・友人の
ための特別枠として割り当てたが、それはロックアップ期間の対象外とされ、
保有者は上場初日から即座に売却して換金できた。
そうしたインサイダーらは、上場初日だけでも11%~19%の利益確定の機会が
あったことになる(上場来高値225.64ドル、安値104.83ドル)。
上場時点の売出株数は4.2%だったので、5%はそれ以上の株数となる。

また、今を生きている人間としては、「人類への壊滅的または存在的リスク」についても補足が
必要かも知れない。
ビル・ゲイツ氏などは10億人の命が脅かされるとしている。
これは世界人口の8人に1人に相当する。

日経新聞は、「『悪用、複製、兵器化』『人の停止指示に抵抗』
『情報を隠蔽または操作、脅迫にも似た強制的かつ欺瞞(ぎまん)的な出力』――。
アンソロピックは目論見書の約3割を、リスクの記載に費やした。

悪意のある人間が高性能AIをサイバー攻撃や兵器に悪用しかねないといった注意喚起に
とどまらず、自律的なAI自身が予期せぬ行動を実行し、
アンソロピックですら制御できないといった異例の内容だ。

さらには実際に事故が起きた際の訴訟費用や賠償金について、保険では
カバーできないとの見通しも示した。
損害規模があまりにも巨大で、
『単一の保険会社や保険業界全体でも、
十分な引き受け能力がない』ためだ。」とまとめた。

「アンソロピックですら制御できない」とは、車のブレーキが
効かないという意味だ。
運転者らは激しい競争を繰り広げている。
より速く、よりパワフルに、より快適にといった具合だ。
誰もブレーキのかけ方を知らないのに、他者より速く走ることを競っている。

こうしたリスクを文書化しているように、アンソロピックは
他の企業や政府よりも抑制的だ。
それでも巨額資金を調達して開発を進める予定だ。
AI関連の運転席にいる者たちは、経営者から政治家まで押並べて常軌を逸していると
言っていいだろう。

一方で、乗客たちは既に実害を受け、そのスピードに怯えながらも、
「まさか止まれないことなどあるはずがない」と、
根拠もなく信じようとしているのだ。