1人の力
自民党の政治家を中心に、
政治家と統一教会の浅からぬ関係が追求されている。
1票に意味がないと多くの人が思っている一方で、
「1票欲しさには手段を選ばない」とされている現実がある。
政治家にとっては無償で身を粉にして選挙運動を手伝ってくれるので、
当選するには不可欠な存在だと頼る人たちが相当数いたそうだ。
一方、統一教会にとっては、政治家に恩を売れるだけでなく、
選挙運動を通じて自民党の一般党員や有権者に直接アプローチできることが大きい。
布教活動としては、むしろこちらのメリットの方が大きそうだ。
先の参院選は、安倍元首相暗殺直後だったにも関わらず、
投票率は過去4番目に低い52.05%だった。
これは政策だけで勝負する候補者には不利で、
確実票が見込める支持団体を持つ候補者に有利に働く。
統一教会などの支援をより効果的にするのだ。
私は投票したい人がいなくても、消去法で投票だけは欠かさず続けているが、
それだけでも統一教会などによる日本政治に対する影響力を弱めることができてきたことになる。
1票の力、1人の力など、取るに足りないのかも知れないが。
自民党の一般党員や、選挙運動に協力してきた地元の有力者たちは不安だろう。彼らの個人情報が統一教会に渡っていた可能性があるのだから。
カネと権力がからむ政治の世界は恐ろしい。これを行っていたのが、日本の首相を最も長く務め、日本の現状をつくった最大の功労者だとされ、過去にはたった1人しかいない国葬に値すると見なされている人物だったのだから。
参照:統一教会への「歯止め」を決壊させた安倍元首相
https://toyokeizai.net/articles/-/613877
参照:旧統一教会と北朝鮮の「濃密関係」、観光事業からミサイル・核開発まで
https://diamond.jp/articles/-/308835
我々の1票が軽いように、私などが何を言っても虚しいように、1人の力など本当に取るに足りないものなのだろうか?
今年のNHK大河ドラマは、鎌倉幕府成立前後を扱っているが、関係キーパーソンの誰が欠けても、後の体制は変わっていた。そうなると、後の蒙古来襲時に日本は征服されていた可能性がゼロではなくなる。
日本の戦国時代は、西欧の武力と宗教による植民地拡大時代だ。当時の信長や秀吉の側近、家康の周りにもキリシタンの影響を強く受けた人物たちがいた。もし、この3人の誰が欠けても、日本も植民地になっていた可能性がゼロではなくなる。
幕末に薩長の偉人たちがいなければ、明治維新はなかったのだろうが、渋沢栄一などの旧幕臣がいなければ、帝国主義時代の列強諸国に飲み込まれていた可能性がゼロではなくなる。
つまり、1人の力など取るに足りないと思われている一方で、1人の力が歴史を変え、その後に続く膨大な数の人々の人生を変えてきた事実があるのだ。
アマゾンのプライムビデオ・サービスは、月間500円で多くの名作映画が見放題だ。
その「ウィンストン・チャーチル」を観て、第二次世界大戦の認識が変わった。私は、英米が勝つべきしてナチス・ドイツに勝ったと思っていたのだが、チャーチルという「個人」がいなければ、少なくとも現在のような世界はない。
参照:ウィンストン・チャーチル
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B07FMKBFC7/ref=atv_hm_hom_1_c_E6DOit_16_26
それに刺激されて、「ヒトラー ~最後の12日間~」も観た。ナチス・ドイツの敗戦直前の退廃と狂気とがよく分かる。ここでもヒトラーという「個人」がいなければ、少なくとも現在のような世界はない。
参照:ヒトラー ~最後の12日間~
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B00G884HDE/ref=atv_hm_hom_1_c_E6DOit_16_10
これらの人々はその後に続く膨大な数の人々の人生を変えてきた。つまり、良くも悪くも、1人の力で歴史は変えられたのだ。
これら歴史を変えるような「偉人」たちは、一般の人々とは全く違う人々だろうか?
普通の人たちが、それぞれに1人の力を発揮して、多くの人の命を救った例がある。タムルアン洞窟の遭難事故だ。
2018年6月23日にタイのタムルアン洞窟に地元のサッカーチームの少年12人とコーチ1人が閉じ込められたが、7月10日までに13人全員が救出された(救出活動初期にタイ海軍のダイバー1人が殉職)。私は当時のニュースで事故は知っていたが、全員救出だと報道されたために、そこまでギリギリの奇跡的な救出だとは思っていなかった。
これも映画化されており、アマゾンで観ることができる。お勧めだ。
参照:13人の命
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0B4573QL9/ref=atv_hm_hom_1_c_E6DOit_16_8
サッカー練習後に、雨季直前の洞窟内に入った13人は、突然の雨で洞窟内に流れ込んだ水流のために、洞窟奥深くの小高い場所に閉じ込められる。脱出には何キロか潜水しなければならない。雨季が始まれば洞窟全体が水没する。食べ物はない。洞窟内空気の酸素にも限界がある。などといった、救出までの時間との戦いが始まる。
救出そのものは、英洞窟救助協会に所属するダイバーたちによる、「1人だけでも助けられるものならば」という限界ギリギリへの挑戦によって、「奇跡」が起きる。
しかし、救出までの時間をここまで伸ばしたのが、タイの水道技師と、地元の人々、ボランティアなどの普通の人々だ。
タイの水道技師は報道で事故を知り、ポンプで洞窟内から排水する様子を映像で見、それでは間に合わないと1人で勝手に駆けつけて、「何の権限で」と怪しむ地元の人々を説得し、洞窟への雨水の侵入口を1つでも多く塞ぐという行動を指揮したのだ。
また、山の侵入口からの流水を近隣の田んぼに排水することで、収穫前の田んぼを水没させることでも、地元の農家の合意を得た。地元の農家たちは、子供の命には代えられないと、収穫を放棄したのだ。
本格的に雨季が始まり、救出中にも水かさがどんどん増して急流となっていく。13人の後ろには、タイ海軍のダイバーがしんがりを務めていたが、彼は急流に押し流される形で脱出するという、ギリギリのタイミングだった。
ここまでギリギリのタイミングは、映画向けの演出かも知れない。しかし、多くの地元の人々、ボランティアなどの普通の人々のうち1人でも力を出し惜しみしていれば、その分だけ水没が早まっていたことになる。そのため何人か、あるいは全員の命が失われた可能性があるのだ。
たかが1人。されど1人。1人の力でも何かができることを教えてくれる実話をもとにした映画だ。
自分たちも、少なくとも自分の周りの人々の力になることはできる。そして、その積み重ねが、1人の命を救い、その後に続く膨大な数の人々の人生を変えるかも知れないのだ。
<講師プロフィール>
矢口新(やぐち あらた)
1954年生まれ。
金融業界の第一線で30年以上にわたり活躍し続け、
プロディーラーにも師と仰がれる天才ディーラー。
東京・ニューヨーク、ロンドンと世界3大金融市場で活躍し、
さらには為替、債券、株のすべてに関わるという
非常に稀有なキャリアを持つ。
相場を動かすプロの裏の裏まで知り尽くしており、
投資を真剣に学びたいという意欲ある方々との交流にも熱心。
矢口氏の投資家としての力量は風聞でしか知らない。しかし、毎回投稿されるブログの記事は間違いなく一流だ。データに基づく深い考察や意見にはうなずかされることが多い。どうかこれからも素晴らしい記事をご執筆下さい。