米国のつなぎ予算の意味
こんばんは、矢口新です。
米政府機関の部分閉鎖が当面の間、回避された。
しかし、それは閉鎖危機が先延ばしされただけで、
閉鎖に至る確率はむしろ高まったと言えるかも知れない。
先週述べたように、米連邦議会の上下両院は期限の前日に当たる9月30日夜、
土壇場で11月17日までのつなぎ予算案を超党派で可決、
バイデン大統領が署名して成立した。
未だに正式な予算が成立していないのは、
膨大な累積赤字を抱える米政府の運営に不可欠な政府債務の残高が
法律上許される上限に達していることで、
政府が上限枠の引き上げを議会に要請しているからだ。
議会は債務上限を引き上げる条件として、
財政の健全化、歳出削減を求めている。
米連邦議会は上院100議席のうち、
2022年の中間選挙の最終結果が確定した12月6日時点で、民主51、共和49で民主党が、
下院は435議席のうち共和222、民主213で共和党が、
それぞれ多数派を握るねじれ国会となっている。
歳出削減をめぐる両党のせめぎ合いで、
最後まで争点となっていたのがウクライナ支援だ。
ウクライナ支援は米国の国策だとも言えるが、
以前からくすぶっていたバイデン親子のウクライナ利権の実態を次第に
大きなメディアが取り上げるようになってきたことで、
「バイデンの戦争」だと捉える傾向が強まってきている。
そこで、共和党はウクライナ支援を含むつなぎ予算は
受け入れられないとの立場を明らかにしていた。
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一方で、世界中にロシア制裁を強要し、ウクライナ支援を強く要請してきたバイデン政権が来年度予算にウクライナ支援を盛り込まないことは立場上有り得ない。米国の支援が今後なくなれば、ゼレンスキー大統領が述べているように「ウクライナが負ける」のを見過ごすことになるからだ。あるいは、日欧などの賛同国だけに大きな追加負担を強いることになる。
いずれにしても、ウクライナ支援を止めればバイデン親子が長年にわたって築き上げてきたウクライナ利権が弱体化する。仮に、ウクライナ支援なしで両党が合意しても、バイデンが署名しなければつなぎ予算は成立しなかったのだ。
とはいえ、実際にはウクライナ支援を除外したつなぎ予算にバイデンは署名した。そこで、浮上したのが共和党のマッカーシー下院議長がウクライナ支援に関する単独採決を後日に行うことに同意することと引き換えに、バイデンが同意したという疑惑だ。
しかし、そうした歳出をめぐる裏取引は米国民に対する裏切り行為だとして、共和党の極右とされる少数派が問題視し、弾劾決議に持ち込んだ。そして下院は10月3日、マッカーシー議長を216対210で解任した。下院議長の解任は米国史上初だった。
賛成は216票、弾劾を先導した共和党の8人に、共和党の分裂を利用した民主党の208人がマッカーシー解任に投票した。反対は共和党の210票だった。マッカーシーは、自身の行動は「政府閉鎖を避けるには不可欠」だったとして正当化、議長選への再出馬はしないと述べた。それを受けて共和党議員らが10月10日に会合を開き、マッカーシーの後任候補について協議する予定で、新議長の投票は10月11日に予定されている。
つなぎ予算が9月30日に成立するまで、市場の大勢は「何のかんのと言っていても、政府閉鎖は避けられるのではないか」と楽観視していた。合理的に考えれば、政府閉鎖で得をする人はいないからだ。チキンレースでどちらもが最後までブレーキを踏まないことなど有り得ない。集団自殺ではないのだから。
確かに予算は成立した。しかし、それは期限の数時間前で、それには下院議長の米国史上に残るような決断を必要とした。しかもそれでも本予算ではなく、11月17日までのつなぎ予算でしかない。
今後の問題は、次に誰が政治生命を脅かすような下院議長になるのかだ。また、同じ手が二度と使えないだろうことを鑑みれば、次のつなぎ予算案をどうやって成立させるかだ。あるいは、本質的な問題である歳出削減や債務上限枠の引き上げを、どうやって行うのかだ。
世界を事実上リードしている米国のこの窮状は、世界中に、特に同盟国とされる国々に大きな影響を与えることになる。政府閉鎖は米国経済や米市場だけでなく、米国と経済関係を持つすべての国々に悪影響を及ぼす。また、ウクライナ支援削減を含む緊縮財政は米国外交の見直しにも繋がるのだ。
日本がその悪影響から免れることができるとは考えない方がいい。最も悪影響を被る国の1つかも知れないのだ。同盟国であるならばと、米国の窮状を救うことを要求される可能性があるからだ。何が起きるか、何を要求されるのかを身構えて置くだけでも必要ではないか。
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