先物主導の日本株急落
こんばんは、矢口新です。
日本株が急落している。
日経平均は史上最高値をつけた7月11日の翌週から3週連続で下落、
高値から8月2日終値までの下落率は15%となった。
一方、トピックスは13%の下落、
日経225先物の直近限月は18%の下落だった。
これらが示唆しているのは、
先物が下げを主導していることだ。
先物が大きく売られると、現物との裁定取引が出て、
日経平均も売られる。
日経平均が大きく売られると、
割高感の出るトピックスに裁定取引の売りが出る。
先物主導で、日本株全体が売られるのだ。
一方、この日本株の急落期間中、
前日比で最も下げたのは2日金曜日で、それぞれ日経平均が5.81%、
トピックスが6.14%、先物が3.12%だった。
この日のトピックスの下落率は、
ブレグジットが決まった2016年6月24日の7.26%以来の大きさだという。
このことが示唆しているのは、
金曜日も先物が継続して売られているものの、買戻しが出ている可能性だ。
実際、先物が最も下げたのは前日の木曜日だった。
先物を使うのは主に投機筋で、機関投資家が使う場合にはポートフォリオのヘッジ売りに使う。メディアのコメント見ていると、7月初旬には機関投資家が日本株に強気で、下旬には弱気に転じたように感じてしまうが、主にファンダメンタルズを見て投資するプロの機関投資家が、月初と月末で方針を180%転換することはまずないと言っていい。
投機筋が先物を使うのは、流動性が高いうえに1銘柄で市場全体に影響を与えることができるからだ。機関投資家がヘッジ売りに先物を使うのは、ファンダメンタルズを見て投資している数多くの銘柄を値下がり理由で売ることは、自己矛盾に至るからだ。ファンダメンタルズがいいのなら、値下がりは割安だけを意味するので、本来ならば買い増ししたいほどなのだ。とはいえ、評価損の拡大には耐えきれないので、1銘柄で市場全体をカバーできる先物を売ることになる。
そしてどちらも、こうした先物の売りは、買戻しが前提だ。
実は、同期間に日経225先物よりも売られている指数がある。ナスダック上場の主要半導体関連銘柄で構成するフィラデルフィア半導体株指数は、7月10日に付けた史上最高値から2日金曜日の終値までに22%下落している。米株市場では、直近の最高値から20%以上下落すると、ベア(弱気)相場入りだと言われている。とはいえ、7月10日が史上最高値だったことが示唆しているのは、ベア入りしたからといって、相場が崩れることは、これまでほとんどなかったということだ。多くの場合は、絶好の買い場となってきた。だからこその最高値、右肩上がりなのだ。
勝手な相場観を言わせて貰えば、米株は今週、多少なりとも反発すると見ている。何故なら、ナスダック上場の主要半導体関連銘柄は、世界の株安を先導するようなボロ株ではないからだ。最も売られたのは、最も買われ過ぎてきたからだ。つまり、この下げはどこかで必要だった価格調整しか意味していない。
下げればファンダメンタルズ的には割安になる。また、米企業も自社株買いに活発だが、同じ資金ならば安い方が多く買える。自社の株価の下支えにもなる。日本のGPIFも米株安とドル安で、海外株の買い余地が広がっている。
とはいえ、また最高値を更新できるかどうかは分からない。そもそもの最高値が極めて投機的だったからだ。エヌビディアを買えば米株全体が上がるという実情は、先物買いとあまり変わらない。
また、もともと最高値自体がインフレと同義に近いものだった。世界的にコロナ対策で悪化させた経済に、大量の資金を供給したことで何もかもが値上がりしたからだ。そして、その結果としてここ数年で大きく傷んだ財政と家計が、今後企業業績や株価の重石になってきても不思議ではないのだ。
日本企業の話だが、「現在、日本の雇用環境はある意味で過去最悪の状況にあります。」という見方もある。
私がそのコメントには必ず目を通す数少ない論者の1人、百年コンサルティング代表鈴木貴博氏のコメントをダイヤモンドから一部引用する。興味深いコメントなので、ぜひ一読をお勧めする。
(引用ここから、URLまで)
「企業の貧困化」というのは私の造語ですが、多くの中小零細企業では従業員の報酬をなかなか上げられないのです。その状況が最近ではより大きな企業にも波及しています。
企業の貧困化といっても利益は上がっているのです。株主に対する利益は最優先して確保しなければいけないので利益は確保しなければなりません。しかし経済がうまくいっていないことから売り上げが増えません。円安で仕入れコストは年々上がります。その結果、企業としてのサイフの中身が貧しくなって従業員に十分な報酬が支払えなくなります。
そういった黒字の貧困企業では過去に雇用した正社員が重荷になります。そこでふたつの現象が起きます。ひとつは正社員の残業をなくすこと、もうひとつは最低賃金近辺で働くことができる非正規労働者の仕事を増やすことです。
前者の結果として、わが国では副業を容認する企業が増えました。後者はITや機械化投資を駆使することで、熟練を不要とする仕事が職場にどんどん増えていきました。どちらも派遣とバイト市場の拡大に寄与します。
ただ、そこまでの状況ならタイミーの参入チャンスはまだ大きくなかったかもしれません。タイミーにとって追い風になったのは、少子高齢化の影響がいよいよ目に見えて大きくなってきたことと、コロナ禍で外国人労働者が激減したことでした。
要するに極端な人手不足が日常化したことで、従来型の派遣やバイトでは仕事が埋まらなくなったのです。そこで企業は窮余の策としてバイトの仕事を細分化します。短時間、単発なら労働力を供給できるというスキマバイトニーズに労働の門戸を広げたのです。
時を同じくして、供給能力が極端に不足した他業界ではその隙間を埋める新ビジネスが成功を始めます。ウーバーが出現したのはアメリカの大都市部で極端にタクシーの台数が足りなくなっていたからです。そして民泊のエアビーアンドビーが出現したのはホテルの供給不足が背景です。
そして日本ではこのウーバーの出現が、タイミーの労働市場へのハードルを下げる2番目の重要な役割を果たします。
参照:スキマバイトのタイミー上場!「10年後にはプロ野球の球団もてるかも…」急成長のウラにある3つの事情とは?
https://diamond.jp/articles/-/348012
日本の株高は大量の資金供給によるインフレが主因だ。好調に見える企業収益もその多くはインフレと円安からもたらされている。素晴らしい日本企業は確かに多いのだが、全体としては株価の右肩上がり支えられるものとは言い難い。
とはいえ、この株価の調整によって、自社株買いがし易くなり、年金にも買い余地ができた。しかし、一方で「売らねばならない」政策株の売却益が減少することになる。株高で様子見をしていた損保やメガバンクらが、株価の戻りを売りに来る可能性が高まった。
このことは、日本株の目先の反転は期待できても、最高値を更新できるかどうかは分からないことを示唆している。勝手な相場観を言わせて貰えば、仮に再び投機筋の力で最高値更新が実現できても、それが事実上のダブルトップとなってしまう可能性が高まってきたと見ている。
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