期間限定の「new normal」
こんばんは、矢口新です。
先週の米株市場は
主要3指数共に史上最高値を更新した。
一方で、S&P500企業第1四半期の営業利益は
前年比では5.27%増だったものの、
前期比は6.59%減だった。
その後は前期比でも回復しているものの、
株価の最高値を支えるものではない。
このことは、
そのまま株価が割高になっていることを示している。
実際、S&P500のPERは
約30倍にもなっている(収益の30倍買われている)。
過去の平均は15~20倍とされているので、
通常の1.5倍から2倍買われていることになる。
また、株式の時価総額を
その国のGDPと比較するバフェット指標も、
適正とみなされる2倍の200%を
超えたとする報道もある。
これは収益や実体経済をベースに
株価が調整されると、
最大50%売られた水準で
落ち着くという意味となる。
前例を探せば、
PER30倍超まで買われた
1990年代後半~2000年初頭の
ドットコム・バブルでは、最大78%調整した。
そのため、市場にキャッシュが10兆ドル以上滞留し、
バフェット氏の株式ポートフォリオの
キャッシュ比率が50%超が象徴するように、
ここ数年間、機関投資家らを中心に
高値警戒感が支配的だった。
そしてその間の買い手の主役は自社株買いだったのだ。
ところが、ラッセル2000を含む
4指数が最高値を更新し続ける中で、
投機筋やETFも米株市場に参入、
高PERは「new normal」ではないかとの見方が出てきた。
(Wall Street says high stock valuations could represent a ‘new normal’)
「new normal(新常態)」
という言葉は、
「大きな変化の後に定着する、新しい当たり前の状態」
という意味だ。
2008年のリーマンショック後に、
ピムコや経済学者たちが世界では
「低成長・低インフレ・低金利が新たな常態になる」
として、
「the new normal」
と呼び始めた。
また、2020年のコロナ禍でも
「new normal」が再び広く使われるようになり、
「リモートワーク、マスク生活、
ソーシャルディスタンスといった、
コロナ以降の新しい日常」
を指す言葉としても使われた。
つまり、
「異常だと思っていた状況が、やがて普通になる」
とされたのだ。
「new normal」は、
近年の金融市場の変化においても使われている。
ETFの拡大、アルゴ取引、
自動売買、ファミリーオフィス、AI駆動の資金フローなどが
市場を大きく動かすようになったようなことだ。
実は、私自身も「new normal」的なコメントを
してしまったことがある。
当時は「パラダイムシフト」という言葉を使っていた。
1987年半ばに米株のブラックマンデー直前の
割高なPERを米市場の古い基準だとし、
ザ・生保などの巨額のジャパンマネーが
パラダイムを変えつつあるとしたのだ。
しかし、ブラックマンデーで株価が調整したように、
過去の「new normal」は「normal」とはならなかった。
「new」と言いながら、
あとでまた「new new normal」が来るのが現実だ。
リーマン後には、
米連銀が大量の資金供給を行ったことでインフレが誘発され、
後の高金利に繋がった。
コロナ時の「new normal」は
基本的に一時的な
「異常な」ものだった。
米株の歴史では、
PERが20倍を超えて
長く続いた局面は数回しかなく、
10年以上続いたケースは存在しない。
「new normal」はいつかは修正されるのだ。
もっとも、
「株価が暴落する」とは限らず、
EPSが徐々に追いつく
「静かな修正」も考えられる。
しかし、その場合でも株価の上昇が減速してくれないと、
全企業の収益やGDPが
いきなり2倍になることは考えられないのだ。
ちなみに、温暖化、気候変動は人類の
「new normal」になりつつある。
これは、氷河や永久凍土の溶解を鑑みれば、
「異常だと思っていた状況が、
やがて普通になる」と見ていていいだろう。
しかし、これも氷河期などといった
地球規模の時間軸では、
やはり期間限定の「new normal」だと言っていい。

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