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ソフトバンク・ビジョンファンドのバブル崩壊か?

上場企業2022年4-6月期の純利益は
前年比26%減と2四半期連続で減益となった。

自動車や電機が原材料高や供給制約で振るわず、
円安による押し上げ効果では補えなかった。

ソフトバンクグループが株安で巨額赤字を計上したことも、全体を押し下げた。
日本企業の減益幅は、世界全体の5%減よりも落ち込みが大きかった。

ソフトバンクが8月8日に発表した4-6月期決算は、
純損失が3兆1627億円と、四半期ベースで過去最大の赤字となった。

うち、ビジョンファンド事業からの投資損失は2兆9191億円に達した。上場する投資先の株価急落による損失に加え、未上場の投資先の評価額も計上した。また円安により、国内会社の米ドル建て純負債が円ベースで増加し、為替差損8200億円を計上した。

これにより、ハイテク・ベンチャーへの投資を謳い2017年に立ち上げた1号ファンドと、2019年からの2号ファンド(ラテンアメリカファンドを統合)を合わせた利益がほぼなくなった。1号ファンドの累計損益は1兆5172億円のプラスで、2号ファンドは1兆3387億円のマイナス。

参照図01:ソフトバンク・ビジョンファンドの累計投資損益(出所:東洋経済)

2016年の世界のベンチャーキャピタル総投資額が1500億ドル以下だったところに、1号ファンドは1000億ドル(ソフトバンク3割出資)を90数社のベンチャー企業に振り分けた。2号ファンドは560億ドル(ソフトバンク全額出資)で、ピーク時には2日に1社という異例のペースで投資を決めたという。同ファンドの投資先は267社だが、上場したのは14社。大半は未上場投資先の評価損となる。

ビジョンファンドはソフトバンク純資産の半分近くを占めている。

「有頂天になっていた」と、孫社長は語った。「1号ファンドでは1社に1兆円近いような投資をし、大振りで三振というものがたくさんあった。これを反省し2号ファンドではしっかり組織を作り、1社あたりの投資額も小さめにして、行けると信じていた。だが打席で振りまくったら大きな評価損を出した。市場環境や戦争、コロナの影響はあくまで言い訳。もう少し厳選して投資していればこれほどの痛手を負わなかった」。

同氏は、ビジョンファンド部門の運用コストを大幅に削減し、新規投資を厳選する考えを示した。一方で、昨年以降、ビジョンファンドからは幹部の離職が相次いでいる。昨年には副社長兼最高戦略責任者を務めた佐護勝紀氏、今年に入っては最高執行責任者を務めていたマルセロ・クラウレ氏が退社。直近では長年ビジョンファンドを統括してきたラジーブ・ミスラ氏が主要な職務の大部分を退くと報道された。ちなみに、クラウレ氏の退職金と長期報酬は127億円だという。

また公表によれば、4-6月に合計で約1兆7000億円を調達、6月末時点の手元流動性は約3兆8000億円に積み上がった。

内訳は、保有するアリババ株の一部を先渡し売買契約で、約1兆3000億円を調達した。この先渡し売買契約では、返済時には金融機関に現金で返すか、差し出した株式を充てるかを選ぶことができるという。1-3月にもアリババ株を活用して約4800億円を調達していた。また、米通信会社Tモバイル(旧スプリント)の株式の一部を親会社のドイツテレコムに約3000億円分売却し、アーム株を担保とするローンで約600億円調達した。

先渡し売買契約での返済時に、現金で返すか差し出した株式を充てるかは、アリババ株の上げ下げに左右されることになる。この時の選択権(オプション)を得た方は、プレミアムを払ったことになるはずだ。

ソフトバンクは、8月中旬以降のアリババ株を利用した先渡し売買契約は、現物決済のみにすると発表した。これに伴い、アリババ株の保有比率が20%以下(先渡し売買契約で差し出した株式を充てると14.6%)に低下して持分法適用会社から外れるため、7-9月期決算では関連利益を計上することになり、税引き前利益に対する影響額は約4兆6000億円に達する見込みだという。

これで分かるのは、ソフトバンクの業績はビジョンファンドとアリババに大きく依存しているということだ。これにアームを加えれば、同社は事業会社というより、投資会社だと言っていい。ちなみに、同期間のソフトバンク事業の利益は約2200億円だった。

このことは、ソフトバンクの業績は、ベンチャー市場、中国市場、半導体市場の動向を強く受けることを示唆している。また、大きな外貨建て債務があるので、円安にも弱い。現状は残念ながら、これらのどこも良くないのではないか?

一方で、ソフトバンクグループは同日、発行済み株式の6.3%にあたる1億株、4000億円を上限とする自社株取得枠を設定した。取得期間は8月9日から2023年8月8日までの1年間。同社は昨年11月、最大1兆円の自社株取得を決議し、7月末までに7048億円を取得しているが、この取得期間が終了した後も、自社株取得を継続できるように、新たに枠を設定した。取得した自社株は消却する予定。

これは自己資本比率の低下を意味し、これまで以上にレバレッジ経営を進めることになる。一方、利益が出れば、小さな自己資本で(大きなレバレッジをかけ)利益を出すことになるので、ROEの上昇が期待できるようになる。

私は「投資の学校」向けの「バブルのケーススタディ」で、ソフトバンク・ビジョンファンドを、2020年2月と、2022年7月の2回取り上げた。つまり、同ファンドがそれなりのパフォーマンスを上げている時から、バブル的だと指摘していた。

その意味では、孫社長の述べる「市場環境や戦争、コロナの影響はあくまで言い訳」は、言い訳にもならない、もともと極めて危険なファンドだったと言える。

その理由を箇条書きにすれば、以下のようなものとなる。

1、2016年に1500億ドル以下だった市場に、2017年に1000億ドルを88社に投資

2、巨額の資金は焦りの現れ?

3、無理を強いられるスキーム

4、バブルは必ず崩壊する

これらについての詳しい解説は、
矢口塾のコメントで。

<講師プロフィール>

矢口新(やぐち あらた)

1954年生まれ。
金融業界の第一線で30年以上にわたり活躍し続け、
プロディーラーにも師と仰がれる天才ディーラー。

東京・ニューヨーク、ロンドンと世界3大金融市場で活躍し、
さらには為替、債券、株のすべてに関わるという
非常に稀有なキャリアを持つ。

相場を動かすプロの裏の裏まで知り尽くしており、
投資を真剣に学びたいという意欲ある方々との交流にも熱心。

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