日銀の市場介入
2022年9月22日、日銀はドル売り円買いの為替市場介入を行った。
規模は円買い介入としては過去最大の2兆8382億円。
これまでは1998年4月10日の2兆6201億円だった。
為替市場への介入は2011年11月4日以来で、 ドル売り円買いの介入は1998年6月17日以来となる。
8月末の外貨準備高は1兆2921億ドル(当時のレート約138円90銭で約179兆円)が、 市場介入の原資となるので、何の制約もないと有りそうもない仮定では、 同規模の介入を約63回繰り返すことができる。
また、今年の貿易赤字は18兆円に迫りそうなので、 貿易での外貨需要なら約10回分満たすことができる。
もっとも、市場介入は市場から円を吸収するので、引き締め効果を伴う。
そこで、その影響を考えてみる。
8月のマネーストックM3の平均残高は前年比3.0%増の1565兆4000億円だった。
うち預金は前年比5.9%増の914兆5000億円、現金は2.9%増の114兆7000億円、外債は14.9%増の34兆7000億円などだ。
日本の外貨準備高はヘッジなし外債での外貨需要を約5倍分満たすことができる。
ここで、預金だけに注目すると、前年から約53兆円超増えた。市場介入の外貨売りで、貿易赤字分の外貨を供給、その分の円貨を吸収しても、例えば、預金の伸び率が5.9%から3%台後半の伸び率に下がるだけだ。
その意味では、同規模の為替市場介入を少なくとも後数回は繰り返すことが出来る。仮に私が財務省の担当者だったとすれば、テクニカル的な判断からも今週(10月17日~21日)行うかも知れない。
もっとも、外貨準備の大半は米国債で保有しているので、米政府を刺激することになる。上記のコメントはあくまでも仮定上の話だ。
ここに、円安(1990年8月以来となる148円台後半)、インフレ(8月の消費者物価指数:前年比+3.0%、コア指数:前年比+2.8%、9月の企業物価指数:前年比+9.7%)対策として、日銀が利上げを出来ない理由を繰り返しておく。
1、国内需要は大きくない
GDPギャップはコロナ前の2019年10-12月期から2022年4-6月期まで11四半期連続でマイナス(=需要不足)。利上げでこれ以上需要を減らしても、インフレを抑えられないだけでなく景気をさらに悪化させるだけ。
2、ゾンビ企業が耐えられない
帝国データバンクは2022年7月、BISの「ゾンビ企業」の定義である「3年以上にわたってインタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)1未満、かつ設立10年以上」に該当する企業を調査し、国内に約16.5万社の「ゾンビ企業」が存在すると推計した。
つまり、利益で利子が払えない企業が16万社以上存在する。利上げはそれらゾンビ企業を追い込むだけでなく、さらに多くのゾンビ企業を創出する。
また、全企業の6割以上が欠損法人(赤字で税金を払えない企業)だ。
3、インフレは海外発
日本はエネルギーのほとんど、食料の大半を輸入しているので、国内での利上げは無力。
4、財務省が許さない?
「財務省のホームページには、普通国債残高は1000兆円を超えており、金利が上昇すれば利払費が大幅に増えることになります」と明記されている。
日本の経済政策は事実上打つ手がない状態となっている。税制改革など抜本的な見直しがない限り、過去20数年の停滞から、今後は坂道を転げ落ちる状態となっていく。貿易赤字、円安、インフレのスパイラルがそれを加速させる。
英企業年金の危機は、年金や保険、預金も安全確実ではないことを示唆している。保証や保障を物語る政府は、民間資産を当てにしているだけなので、厚かましい限りだ。
今更ながらに、自分の身は自分で守るという覚悟が必要だろう。
<講師プロフィール>
矢口新(やぐち あらた)
1954年生まれ。
金融業界の第一線で30年以上にわたり活躍し続け、
プロディーラーにも師と仰がれる天才ディーラー。
東京・ニューヨーク、ロンドンと世界3大金融市場で活躍し、
さらには為替、債券、株のすべてに関わるという
非常に稀有なキャリアを持つ。
相場を動かすプロの裏の裏まで知り尽くしており、
投資を真剣に学びたいという意欲ある方々との交流にも熱心。
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