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日本株の復活は本物なのか?

こんばんは、矢口新です。

日経平均が4万円台で安定してきていることで、
日本株の復活のみならず、日本経済の復活を唱える人が増えてきた。

とはいえ、
日本経済が前回バブル1989年当時の経済規模世界2位、
日本の競争力が世界ランキング1位、

日本企業の時価総額が世界のトップ10に
7社などといった水準に戻るとまで考えている人たちはほとんどいないだろう。

では、せめて下げ続けてきた
各種順位に反転する望みが出てきたのだろうか?

私はそうも見ていない。

1989年度の税制改革以降の落ち込みを緩和してきたのは
日銀による超低金利政策と膨大な資金供給、株式の購入などだ。

それは確かに日本経済が生き延びる手助けにはなったのだが、
本質からの目くらましになっただけに留まらず、
日本を弱体化させた。

例えれば風雪に耐え、あるいは他者との競争に備えて身体を鍛える代わりに、
ぬるま湯につかって栄養剤を与えられ続けたために、
筋肉が落ち足腰が弱ってしまったのだ。

また、栄養剤の大量投与には相応のコストがかかり、
副作用も大きいように、日銀の政策による弊害も大きなものだった。

そしてそれが、身体のサイズは同じでも
脂肪や内臓疾患で体力も機能も大幅に低下した今になって、
もうこれ以上は続けられなくなったのだ。

これらの点はここで何度も繰り返してきており、
拙著の大筋もそれに沿ったものなので、
今更ここでは繰り返さない。

参照:日本が幸せになれるシステム・65のグラフデータで学ぶ、年金・医療制度の守り方

今回取り上げたいのは、ではどうして日経平均が4万円台に乗ってきたのか、それが継続可能かということだ。

まずは、日本株の復活のみならず、日本経済の復活を唱える人が増えてきた一例を挙げる。

米投資会社ブラックストーン・グループのスティーブン・シュワルツマン最高経営責任者は、日本銀行の金融政策の転換を受け「日本は潜在的な成長に向け、新たなサイクルに入った」と述べ、日本事業の強化に意欲を示した。個人向けに新たな商品を開発しているとも明かした。

シュワルツマン氏(77)は28日、都内でインタビューに応じ、「低金利は日本経済の足を引っ張っていた」と指摘。日本経済で起きているインフレ率の上昇、日経平均株価の最高値更新、賃上げなどを例に「世界は日本で何かがポジティブに変化したと結論付けたと思うし、私もそう思う」と語った。日本銀行は19日、マイナス金利政策の解除を決め、17年ぶりの利上げに踏み切った。

参照:ブラックストーンCEO「日本は新たな成長期に」個人向け商品拡充
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-03-28/SAZZOLT0G1KW00?srnd=cojp-v2

このところの高値更新はヘッジファンドによる投機資金によるものだが、長期的に前回バブルから今回の水準まで株価を押し上げてきたのは外国人投資家と日本銀行だ。日経新聞の報道資料では、外国人は約75兆円を購入、日銀は37兆円購入した。一方で、押し下げたのは主に個人投資家で約75兆円を売却した。

私が記録に残している2005年1月から2024年2月までの日本取引所グループの資料では、株式購入額が大きい順に日銀37.1兆円、外国人36.5兆円、事業法人34.7兆円、証券自己10.0兆円、他法人5.6兆円となっている。一方の売却は、個人50.7兆円、生損保9.3兆円、都銀等8.3兆円、信託銀行(年金)6.2兆円、投資信託3.2兆円、他金融2.7兆円となっている。株式投資を続けている年金などが売り越しになっているのは、金額が低い時に買い、高くなって売っているからだと思われる。

購入者のうち、外国人は持株比率が1989年の数パーセントから約30%にまで上昇しているので、4万円回復の真の主役だったと言っていい。一方、事業法人は約30%から約20%に低下しているので、ほぼすべてが自社株買いだったと見ていい。これは資金調達時の株式売却の買戻しなので、押し下げ圧力の緩和だと言っていい。

証券自己は信託銀行を(年金)としているように、自己とは言いながら自己勘定ではない。信託銀行が年金とされているのは、その信託勘定で年金などの資金を預かっているからだ。数行しかない信託銀行自己の銀行勘定は大きくなく、100行を超える都銀等の数パーセントだと見ていていい。

同様に、証券会社の長期保有の自己勘定は無視していいようなレベルだ。なぜなら、証券会社は証券ブローカーとも呼ばれるように、主たる業務は取次だからだ。一時的には巨額の資金を扱っていても、保有するためのものではない。つまり、10兆円の買い越しのほぼすべては場外取引によって生じたショートポジションの買戻しによるものだ。なかには外国人に購入されたものも含まれる。

こうした売り買いで株価が4万円台を回復したことで、この売買構造に大きな変化が起きた。

買い手の大きな主役の1人だった日銀が購入の停止を決めたことだ。これは時間の問題で出口戦略を考えることを示唆している。つまり、今後の日銀は何らかの形で売り手に回る。

また、金融庁の指導で損保が6兆円以上の政策株の売却を決めた。これに刺激されて3メガバンクが合わせて10兆円の残存政策株売却を加速させると言明した。このことは損保よりもはるかに大きい生保の政策株の売却も加速される可能性を示唆している。少なくとも買い手に転じる可能性は消滅した。つまり、金融機関はこれまで以上の売り手として株価を抑えに来る。

では、事業法人の自社株買いは続くだろうか?

自社株買いは配当と並ぶ株主還元の手法だとされている。実際に買う株価押上効果に加えて、発行済み株式数が減ることは概ねファンダメンタルズの数値を改善させるので、株価にプラスだと言える。赤字でも借金して自社株買いするケースもあるが、これは財務の悪化を伴う不誠実な株高策で、通常は十分な利益を背景に行うものだ。

では、今後も最高益が更新され続けられるだろうか?

もちろん、可能性は常にあるが、逆風もある。1つ目は金利高、2つ目は賃上げやインフレなどによるコスト高、3つ目はどの国も財政赤字、公的債務が拡大しているので、増税や関税率引き上げ、懲罰金などで歳入増を図る可能性が高まっているからだ。

バブル時はほとんどの人が強気だ。日本株の復活のみならず、日本経済の復活を唱える人が増えてきたのは驚くに値しない。しかし、マインドやセンチメントで株価や経済が強くなるのならば、皆が強気なのに崩壊するバブルは説明がつかなくなる。敗戦もなくなる。世の中はそんなものでは動いていない。マインドやセンチメントが先行することはなく、現状を追認するだけなのだ。

これまで何度も述べてきたように、日本経済の先行きはここからが正念場だ。また、日銀を含めて日本の機関投資家が売り手としての勢いを強める中、外国人がいつまでも強気でいるとは思えない。加えて、借金による過剰資金に支えられた海外株のバブルもいつまで続くかも分からない。

一方で、先週にもS&Pが最高値を更新したように、まだまだ投機筋の勢いは強い。しかし、日本株の売り手買い手を分析していると、一時的に5万円台に達することがあっても、長期的に4万円台を維持できるとは思えない。売り手は構造的、買い手は投機的だということで、私は現在、日本株の保有には興味がない状態だ。

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