【2024年7月10日】江守哲のコモディティコメント
こんにちは、江守哲です。
9日の金相場は、米長期金利の上昇や対ユーロでのドル高を背景にいったんは売りに押されたものの、取引終盤に買いが入り、小幅反発した。パウエルFRB議長は9日、上院銀行委員会で金融政策に ついて証言し、「インフレが2%の目標に向かって持続的に低下するとの確信をさらに得るまで利下げが適切とは思わない」と指摘した。また、「高インフレのみが直面するリス クではない」とも述べ、慎重に利下げ時期を見極めていく構えを示した。
高金利環境が長引くとの観測につながり、利下げ期待が幾分後退。米長期金利が上昇し、金利を生まない 資産である金の売り圧力となった。対ユーロでのドル高もドル建てで取引されるコモディティの割高感につながった。ただし、質疑応答が進むと、パウエル氏の発言トーンはさほどタカ派的で はないとの受け止めも広がり、取引後半はプラス圏を推移した。
一方、11日に6月の米CPIの発表を控え様子見気分も強く、上値は限定的だった。市場関係者の間では、CPIでインフレの根強さが示される場合、金は最近の上昇基調が一服する可能性があるとの声も聞かれた。現物需要について、シティグループのアナリストは、第2四半期に軟化する傾向にある が、年末にかけて回復するはずだとの見通しを示した。
金相場はかろうじて下げ渋っている。すでに十分に買われすぎになっており、調整余地がある点には要注意である。まずは50日線の2341ドル、20日線の2334ドルを維持できるかがポイントになろう。6月の金ETFフローを見ると、5月に続き欧州とアジア勢が買い越し、全体として17.5トンの買い越しになっている。徐々に金ETFへの資金流入が確認できており、これらが金相場を支えている面もある。中銀の買いも継続しているもようであり、ファンダメンタルズは引き続き堅調といえる。
9日の原油相場は、ハリケーンの影響による供給混乱リスクが後退する中で売られ、3日続落した。大型ハリケーン「ベリル」は8日朝、米南部テキサス州に上陸し、夕方には勢力を弱めて熱帯低気圧となった。石油精製施設が集積するメキシコ湾沿岸では、製油所の稼働縮小や人員退避などの措置が取られたが、現時点で被害は想定ほど拡大してないとみられている。
主要石油積出港については、コーパスクリスティ、フリーポートの2港が8日に一部の操業を再開。ヒューストン港はターミナルを引き続き閉鎖するが、9日午後にも一部船舶の受け入れを再開する見通しという。米国の石油生産の4割を占めるテキサス州の供給混乱を巡る警戒感が後退したため、原油売りが先行。安値圏で買い戻しが入る場面もあったものの、相場はほぼ終日マイナス圏で推移した。
パウエルFRB議長は9日、上院銀行委員会で金融政策に関し、「直面するリスクは高インフレだけではない」と証言した。市場で9月利下げ観測が浮上する中、パウエル氏は今後の政策について「何のシグナルも出していない」と述べた。このため、高金利下での景気やエネルギー消費の先行き不安も根強く、相場の下押し要因になったもよう。
天然ガス相場は約1%安と反落。 来週の需要が従来予想を下回るとの見通しが嫌気された。また、このところの増産傾向に 加え、液化天然ガス(LNG)施設へのガス流入量が減少したことも弱材料となった。テキサス州のフリーポートLNGプラントがハリケーン「ベリル」のため閉鎖されたことが 響いた。
原油相場は続落し、基調が下向きになっているように見える。20日線の80.98ドルが視野に入っており、これを維持できるかがポイントになりそうである。一段安になった場合、売られすぎになると考えられるが、そこで下げ止まれるかが上昇に向けての重要なポイントになる。米石油在庫統計が強い内容になるなど、下値を支える材料が出てくるかを注視しておく。今年は弱気パターンの値動きになっているだけに、これまでの軟調なトレンドが転換するかを注視しておく。目先はショートに妙味があるだろう。
9日のコーンは小幅反発した。前日に約4年ぶりの安値を付けた後のテクニカル主導な値動きだった。気象予報士によると、ハリケーン「ベリル」は勢力を弱め、今週中にメキシコ湾岸からコーンベルト東域に向かう見込み。これが数週にわたり雨不足が続いたイリノイ州とインディアナ州の一部産地に潤いをもたらす可能性がある。米コーンの「優+良」の占める割合は68%と、前週に比べ1ポイント上昇。この時期としては2020年以来の高水準となった。市場予想平均は横ばいだった。
大豆は続落。前日に続き心理的な節目の1100セントを下回り、2020年11月以来、約4年ぶりの安値に沈んだ。脆弱な需要に加え、圧砕マージンの低さや世界的な供給過多を理由に挙げた。ハリケーン「ベリル」による雨が米中西部に恵みの水分をもたらす見通し。米農務省の作柄報告によると、米大豆の「優+良」の占める割合は68%と、この時期としては2020年以来の高水準となった。前週から1ポイントの上昇で、これが引き続き相場に下押し圧力をかけた。
小麦は反発。欧州産小麦の収穫を巡る長引く懸念や、ハリケーン「ベリル」に伴う雨が米プレーンズでの収穫を遅らせる恐れがあるとの見方が支援材料になった。フランスの農業相は9日、小麦の収穫量が前年比15%減少するとの見通しを示した。 米農務省は8日、米国産冬小麦の63%が収穫されたと発表。市場平均予想と一致したほか、5年間の平均値52%を上回った。最大の生産地であるカンザス州では、92%が完了した。同州の5年平均は72%。
市場は米農務省が12日に公表する月間需給報告にも注目している。
NYココアは反発。ただし、非常に荒い値動きが続いている。市場は相場の上昇が需要を減少させているかどうかを見極めようと、4〜6月期のカカオ豆圧砕高に注目しているという。
NY綿花は反落。ドル高に圧迫された。市場は米農務省が12日に発表する月間需給報告を待っている。
NYコーヒーは3日続伸。一時は252.35セントと、約2年半ぶりの高値を付けた。今週にブラジル中央部の一部地域で発生した雨が主要産地では降らない可能性が高いもよう。ベトナムからの輸出停滞で供給が引き締まっていると指摘。次の収穫が本格化する11月まではさらに需給が逼迫するとの見方がある。 税関が9日発表した統計によると、ベトナムの今年上半期のコーヒー豆輸出は89万3820トンと、前年同期比11.4%減少した。
NY砂糖は下落。ブラジル中南部で見込まれる降雨が、乾燥した天気が2024〜25年度の収穫に与える影響を巡る懸念を和らげる可能性があるという。雨はパラナ、サンパウロ両州の一部で降ると予想されている。ただし、主要産地のリベイランプレト地域の一部では降らないとみられている。
コーンは前日の安値を下回らず、かろうじて下値が支えられている。しかし、ファンダメンタルズが弱いこともあり、このまま反発できるかを注視しておく。大豆は大幅続落となった。安値を更新し、下げ余地もあることから、現在の軟調相場が続くかを注視しておく。小麦は小幅に反発しているが、まだ調整余地がある。目先のハリケーンなどの材料もあるが、米国での農産物の収穫や生育にどのような影響を与えるか、状況と市場の反応を注視しておきたい。大豆はショート、コーヒーはロングに妙味があるだろう。
なお、投資判断はご自身の責任で行ってください。
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