株主の視点、従業員の視点
こんばんは、矢口新です。
多くのベンチャー企業の創業メンバーには自社の株式が割り当てられる。
大手企業にも自社株会というものがあり、
参加すれば個々の従業員が給与からの天引きで自社の株式を保有する。
つまり、株主となる。
自社の株式を保有させる、保有する目的は、
従業員であっても株主の視点から企業を眺めることに繋がり、
株価の変動に応じて企業業績と報酬との連動性が強まるからだ。
株主は経営者に対して、持続的な利益の創出や効率的な資本運用、
配当の安定性など、株主にとっての価値の最大化を求めている。
企業戦略やガバナンスの透明性も、株主にとっては重要な評価基準だ。
具体的には、売上拡大・コスト削減・資本効率の向上など、
数字で成果を示すことを期待する。
また、株主の視点はしばしば短中期の成果を期待し、
成果が見えない経営者に対しては、退任要求や取締役会の刷新など、
容赦ない判断も下すことになる。
一方で、企業は従業員にとって働く場であり、生活の基盤でもある。
働きがいのある環境、公正な待遇、キャリアの成長機会、
そして安全で健康的な職場を求めている。
また、企業の理念や社会的責任への姿勢が、
従業員の誇りやモチベーションにもつながることになる。
そのため、従業員は経営者に対し長期的視野での安定経営を望み、
リストラや急激な事業再編ではなく、
従業員の声を聞き、待遇や職場環境の改善に取り組みながら、
持続可能な成長を目指す姿勢を望むことになる。
では、仮に「経営者が無能で理不尽」だと認識された場合、
株主と従業員の対応はどう違うだろうか?
株主にとっては投資の回収やリスク回避が第一で、
人間関係のしがらみが少ないために、冷静かつ即物的な対応になりがちだ。
つまり、経営陣の交代要求や株主提案、
取締役選任の否決、株式売却(=離脱)などとなる。
敵対的買収を仕掛けることもある。
一方、従業員は雇用に依存しており、簡単には離脱できないので、
生活基盤を守るために耐える傾向が強い。
従って、「言っても無駄。黙ってやり過ごそう」と、
ストレス・不満の共有や、逆に社内コミュニケーションの停滞、
モチベーションの低下、内部告発などに至る。
労働組合がある場合の活動は経営陣に協力的組合、
非協力的組合とで対応が分かれる。
従業員にとっての最終手段は転職や退職だが、経済的・年齢的な制約がある。
株主の視点と従業員の視点との構造的な違いを一言で述べるならば、
能動的か、受動的かということだ。
株式に投資することは、株主の視点を得ることでもある。
日本に首相は1人だけ、企業に社長は1人だけということを鑑みれば、
圧倒的多数の国民は受動的な人生を送っている。
そこに株式投資で、限定的ながら株主としての能動的な視野を得ることは、
それだけでも価値があると言っていいのだ。

この記事へのコメントはありません。