「金融ニヒリズム」を悪用する錬金術
こんばんは、矢口新です。
米国では、
かつて誰にでも見ることができた
アメリカン・ドリームが、
一部の人たちだけの夢物語となってきた。
そのため、多くの若年層が
一獲千金のリスク選好を強めている。
こうした現象は
「金融ニヒリズム(虚無主義)」と呼ばれ、
ミーム株やレバレッジ型ETF、
暗号資産といった投機への人気沸騰や、
スポーツ賭博プラットフォームや
予測市場のようなネット掲示板への
関心の高まりを説明するのに役立っている。
参照:Get Rich or Get Wiped Out: Bitcoin’s Hottest New Trade
https://www.wsj.com/finance/currencies/bitcoin-perps-cryptocurrency-trading-leverage-238e53ff
リスクを取らねば上に行けない。
あるいは、生き残ることすら難しくなるかもしれない。
弱者切り捨てが顕著になってきた
現状の格差社会では、
一種の合理性を持った行動なのだ。
金融ニヒリズムを受けた米政府の対応は、
格差是正や弱者救済ではなく、
リスク商品をより身近にすることだった。
そうするために、
慎重派の当局者らが次々と解任されている。
参照:Crypto ETFs set to flood US market as regulator streamlines approvals
https://www.reuters.com/legal/government/crypto-etfs-set-flood-us-market-regulator-streamlines-approvals-2025-09-24/
関連:大統領職で巨額の利益を得たトランプ一家、子ども達の資産額
https://forbesjapan.com/articles/detail/82711
弱者切り捨てが顕著になってきた
現状の格差社会は、
世界的な現象だ。
格差も弱者もないはずだった
社会主義国の実態が、
本質的には自分たちとほとんど変わらず、
統治の仕方の違いだけだと知った頃から、
資本主義諸国は格差拡大の方針を強めた。
累進性の低下やタックスヘイブンの
容認などで富裕層からの徴税を減らし、
消費税や社会保険料などの
一般国民からの徴税を増やしたのだ。
そのため、
金融ニヒリズムは米国に限らず、
世界的な現象になった。
金融ニヒリズムを受けた日本政府の対応も、
米政府と似たり寄ったりで、
リスク商品はこれまでになく身近になっている。
そうした中で、
メタプラネットのような投機会社が現れた。
以下にダイヤモンドから秀逸なコラムを全文引用する。
(引用ここから、URLまで)
東証スタンダード上場のメタプラネットは、
「ビットコイン財務戦略」を掲げて
株価が1年で100倍に高騰したが、
その裏では巧妙な金融スキームが実行されていた。
ビットコインへの熱狂をあおられた
一般投資家を犠牲に、
関係者が巨額の利益を得る
「錬金術」の実態を、
特集『錬金術 暗号資産バブルの真実』の
#1で初公開する。
(フリーライター 村上 力)
投資家の「税制優遇」は本当か?
ビットコイン戦略の熱狂と誤解
暗号資産バブルが、
日本の株式市場に押し寄せている。
東証スタンダード上場メタプラネットは、
長きにわたり赤字体質で時価総額は
20億円程度で推移していたが、
2024年に「ビットコイン財務戦略」を導入。
およそ1年で株価100倍、時価総額1兆円超えを実現させた。
ビットコイン財務戦略とは、
増資や社債発行などで調達した資金で
ビットコイン買うというものだ。
ビットコインに適正価格は存在せず、
上場企業がやるべきではない投機という他ないが、
投資家にはウケた。
最近ではこのバブルに乗り遅れまいと、
株価低迷した企業が続々とビットコイン財務戦略に打ち出している。
しかし、ビットコインは個人でも取引が可能である。
なぜ上場企業がビットコイン取引をすると
市場から評価されるのか。
その理由として挙げられるのが、
「税制優遇説」である。
メタプラネットは昨年5月の適時開示で、
ビットコイン財務戦略には
優遇税制の利点があると主張した。
「日本の居住者に対しては、
仮想通貨で実現した利益は雑所得として計算され、
最高税率で50%以上に達することがあります。
一方で、上場株式/証券の税環境はそれよりもかなり低く、
実現株式の税率は20%です」
(メタプラネットの適時開示より)
これを読むと、
上場会社を介してビットコインを買った方が、
最大30%もの税制メリットが
あるように思えてしまう。
だが、それは誤解だ。
理論上、上場企業を介して
ビットコイン投資をするメリットはほとんどない。
単純な例を用いてそれを説明しよう。
例えば、雑所得に対する税率が50%の個人が、
自身の口座で価値100のビットコインを取得する。
その後、価格が200になったところで売却すれば、
100の売却益に課税され、
税引き後の売却益は50となり、
手元のお金は150になる。
一方、ビットコイン投資だけを行う
上場企業の株式を1株100で取得したとする。
その上場会社がビットコインを買い、
上記と同様の取引を行ったとする。
すると、売却益に法人税が課税される。
これを35%とすると、
当該上場企業の1株当たりの
税引き後利益は65となり、その価値は165となる。
これを165で売却することができれば、
株式売却益65に対して所得税などで20%課税され、
税引き後の手元のお金は152となる。
個人で取引した場合の差は1%程度である。
実際には、上場企業を介した場合、
ビットコイン投資とは関係ない
会社の維持費なども利益から差し引かれるので、
個人で取引した場合との差はもっと低くなる。
そもそも個人で50%以上の課税がされるのは
年間の所得が4000万円以上の場合で、
それ以下の人は自分でビットコインを買った方が
税制面では得になる。
これを「優遇税制」とす
るのは論理の飛躍と言わざるを得ない。
メタプラネット株の高騰は、
こうした投資家の誤解を基に
引き起こされている可能性が高い。
さらにメタプラネットの株主は、
同社の資本政策によるリスクに晒されている。
建前上、メタプラネットの株価は
ビットコインと連動するはずである。
ところが、最近の株価を見ると、
ビットコイン相場に比して、
メタプラネット株価は大幅に乱高下している。
なぜビットコイン相場から乖離するのか。
株価の上昇に乗じて、
同社が株価下落を招くファイナンスを実施しているからだ。
虚構のビットコイン財務戦略に飛び付いた
一般投資家が犠牲となる一方、
米トランプ大統領の一族やファンドが
巨額の利益を得る「錬金術」が浮かび上がってきた。
次ページでその全貌を明らかにする。
トランプ氏次男エリック氏に有利発行
エボファンドは空売りで150億円超す利益か
今年5月、メタプラネットは米トランプ大統領の次男、
エリック・トランプ氏に新株予約権を3万3000個割り当てている。
エリック氏が同社のアドバイザーに就いていることが割り当ての理由だ。
問題はその行使条件である。
新株予約権の価格は1個255円で、
1個当たり100株を行使価格105円で取得できるとされた。
つまりエリック氏は、
1株当たり107.25円でメタプラネット株を買えるのだが、
新株予約権を割り当てた当時、
同社株は500円台で推移していたのである。
発行単価が市場価格の
実に5分の1という有利発行を行ったのだ。
その後、メタプラネットの株価は
6月に1800円台まで高騰。
もし新株予約権を行使し、
1800円で全て売り切れば、
3.5億円の元手に対して約60億円の利益、
500円でも15億円の利益となる。
高値つかみする投資家を尻目に、
濡れ手で粟の利益をトランプ氏に献上したのだ。
このようにメタプラネットを巡っては、
関係者がファイナンスで利益を手にする構図がある。
最も巨額利益を上げているのが、
同社が発行するMSワラントを引き受けている
EVO FUND(エボファンド)である。
エボファンドは昨今、
時価総額の低迷した企業のファイナンスを引き受け手として
存在感を高めている。
基本戦略は、市場価格より割安な価格で
株式を手に入れられるMSワラントなどを駆使した取引である。
MSワラントは、行使価格が行使時期の株価に連動して
変化する新株予約権で、
一般的に行使価格は株価より
割安に設定されることが多い。
極端な例では、新株の発行価格が
市場価格の約2割という破格の条件で、
エボファンドに新株予約権を
割り当てている上場会社もある。
既存株主は損をするが、
株価低迷した企業には選択肢がないため、
有利発行を行わざるを得なくなっていることが多い。
危機にひんした企業を得意とする点で、
「ハゲタカファンド」の一種と位置付けられる。
メタプラネットとエボファンドは関係が深い。
2016年にメタプラネットの
MSワラントを引き受けてから、
エボファンドは何度もファイナンスの
引き受け手として資金注入しており、
22年ごろには株式の52%を握り同社を支配していた。
メタプラネットは今年6月、
最大7680億円を調達する大規模な
MSワラントをエボファンドに発行している。
このMSワラントは割安発行がされず、
行使価格が前日の101%に設定されるものだ。
エボファンドは、
ディスカウント率が0%であることをもって
「EVO-ZERO」と名付け、
株価への影響が少ない資金調達手法だと宣伝していた。
だが6月の増資引き受け以降、
メタプラネットの株価は8月末までに
半分まで下がり続けた。
エボファンドは8月27日までに新株予約権行使で
1億4900万株を取得し、
そのうち1億1837万株を売却している。
払込価額は1817億円に対し、
市場内売却の単価を終値と仮定すると、
売却代金は1432億円。
手元に残ったと思われるメタプラネット株は
3063万株であり、
1株当たりの平均単価は1251円となる。
直近のメタプラネットの株価は500円台で推移しており、
その含み損は約230億円と考えられる。
これだけを見ると、
エボファンドの投資は失敗しているように見える。
だが実は、エボファンドは
新株予約権行使に先行して、
3000万株を借株して市場内外で売却し、
終値ベースで475億円にも上る代金を得ている。
この空売りポジションの含み益は、
株価500円だと325億円となる。
MSワラントの取引と空売りを合わせると、
約95億円の利益を上げているのだ。
エボファンドは発行企業を事前に空売りすることで、
MSワラント行使と株式売却により、
株価が下落すればするほどもうけることができる。
エボファンドによる売却株数は6月~8月末の
出来高の7.7%に及ぶ。
市場内売却が出来高の25%を上回る日もあり、
株価へのマイナス影響が大きい。
空売りとMSワラントを併用するこのスキームは、
元手といえるものはほとんどない。
払込金額の合計は1800億円を超すが、
新株予約権行使は、
市場売却と同時に少しずつ行っている。
空売りでまとまった現金を市場調達しているため、
先行する支出として大きいのは新株予約権価額の5億円程度である。
社長はXで空売りをやゆ
その裏でエボファンドに貸株
メタプラネットは貸借銘柄ではないため、
空売りができるのは大株主から
借株することができる者に限られる。
エボファンドが借株をした相手は、
ほかでもないメタプラネット社長、
サイモン・ゲロヴィッチ氏の個人会社である。
「モルガン・スタンレーのメタプラネットの
空売りポジションに、心からお悔やみ申し上げます」
「それでも100万株以上のショートを抱えたままのようですね。」
ゲロヴィッチ氏は今年2月、
X(旧ツイッター)でメタプラネットを
空売りする機関投資家をやゆし、
こう投稿していた。
社長の投稿はメタプラネット株の上昇を
期待する一般投資家の喝采を浴びたが、
その裏でエボファンドに貸株をしていたのである。
エボファンドは今年1月にも
メタプラネットから総額1000億円分の
MSワラントを引き受けている。
このときもエボファンドはゲロヴィッチ氏から
1900万株を借り、
売却した上でMSワラントを行使していた。
1月のMSワラントも行使価格のディスカウントがない
「EVO-ZERO」だったが、
新株予約権行使に先だって空売りをかけており、
元手といえるものは新株予約権の代金の
約7600万円と一時的に生じた数億円の現金収支のマイナスであると考えられる。
株式が返却されたのは今年6月で、
MSワラント行使と合わせて約70億円の利益を得たと推定される。
6月の空売りと同様、
実質「元手ゼロ」で巨額の利益を上げたのだった。
エボファンドのような金融業者にとって、
ビットコイン財務戦略を取る
上場企業は打ち出の小づちとなる。
普通、上場企業のエクイティファイナンスは、
事業投資などまっとうな資金使途が挙げなければならない。
それに対し、ビットコイン財務戦略の
資金使途はビットコインを買うだけである。
ビットコイン購入量に際限はないのだから、
いくらでもファイナンスを引き出せる。
しかも発行会社の経営陣は、
結果的に損失が生じてもビットコイン相場の
せいにすれば責任追及されない。
暗号資産バブルに乗じ、
虚構のビットコイン財務戦略で急騰した株価。
これを巧妙にカネに換える「錬金術」が、
株式市場で繰り広げられたのである。
Key Visual by Kaoru Kurata, Kanako Onda
参照:【株価100倍】メタプラネット「ビットコインを大量保有する会社」に投資家熱狂、裏でトランプ一家とハゲタカファンドが巨額利益を得る「錬金術」の正体
https://diamond.jp/articles/-/373213
ここでは、トランプ一族も関わる
詐欺まがいの行為が横行している。
投資家もビットコイン代替として、
それなりのリスクを承知で投資している。
とはいえ、リスクを取らねば上に行けない。
あるいは、生き残ることすら難しくなるかもしれない。
弱者切り捨てが顕著になってきた現状の格差社会では、
一種の合理性を持った行動なのだ。
また、株高が続いている今では、リ
スクテイクが報われた人も多い。
ここは私も同意するが、
一か八かのやり方が機能するのは、
初期段階で勝てた場合の勝ち逃げだけだ。
現状の株高は、「通貨の大量供給による通貨安」でしかない。
不動産、金、食料品など、
ほぼあらゆるものが最高値となっている現象と同じものだ。
それは世界的な財政赤字、
公的債務の拡大というコストを伴っているので、
持続可能なものではない。
景気が拡大しても富裕層からは徴取せず、
一般国民は疲弊しているので、
大きな税収増は見込めない。
行きつく先は各国政府の同時破綻、
連鎖破綻、戦争、金融市場の崩壊などだ。
それを防ぐにはどこかで税制改革、
財政改善、公的債務の削減が必要だ。
そうなれば、通貨の価値が戻り、インフレが収まる。
しかし、インフレが沈静化すれば、
実態以上に買われている株価も下落する可能性が高い。
右肩上がりの信奉者たちは、
政府が崩壊しても、通貨下落から立ち直っても、
いずれの場合も大きな被害を受けることになる。
通貨安が生んだバブルの崩壊なのだから。私見ではそうなる。
一方、短期トレードは未来を信じない。
時間が味方だとは信じない。
もっとも敵だとも思わない。
その意味では何も信じない「金融ニヒリズム」に近い。
ニヒリズムでないのは、自分の力を高めることが、
努力だけが、上に行く、
あるいは生き残る手段だと考えることだ。
リスクは取るが、徹底的に管理する。
それは時間のリスクがない短期トレードでしかできないことなのだ。

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