ガザに平和が来るか?
こんばんは、矢口新です。
米トランプ大統領は行く先々で
いくつもの和平をもたらしたと自画自賛している。
そのほとんどはほら話の類に等しいものだが、
ガザに関してはいったんは戦火が収まり、
人質交換などもなされた。
その意味では、ほぼこれだけが
実態のある和平だと言えるかもしれない。
しかし、これはトランプ氏が
和平交渉をまとめたというより、
米国を後ろ盾としたイスラエルが力で勝ち取ったもので、
より正確には、ハマスを無力化しガザを
ほぼ完全に制圧したと言えるものだ。
とはいえ、これでガザに平和が
もたらされるかどうかは分からない。
ネタニヤフ政権とハマスの停戦合意を受け、
イスラエルは多くのパレスチナ人の人質を解放した。
ハマスが解放した人数よりもはるかに多いので、
対等以上の人質解放に見えなくもない。
しかし、解放された所は以前から
「屋根のない牢獄」と称され、
今はほぼ瓦礫と砂(Rubble and Sand)だけのガザだ。
おまけに、イスラエルはハマス対策として
アウトローの暴力集団に武器を提供しているので、
イスラエルの監獄内より環境が良いとは言えない所だ。
いわば、イスラエルは事実上、
パレスチナ囚人を国内の牢獄から
ガザという牢獄に移したに過ぎない。
つまり、これはハマスへの譲歩というより、
むしろイスラエルにとっては人質監禁の
コスト削減のメリットの方が大きいとも言える。
一方、ハマス側の人質解放は難航している。
イスラエルによる狭い地域への
容赦ない攻撃と飢餓状態の元では、
人質を安全な隠れ家に長く監禁しておくことは
誰の目から見ても極めて困難だ。
イスラエルもそのことは理解しており、
生存者の解放が無理ならば、
遺体を返却しろと迫っている。
ところが、瓦礫化した場所で
埋葬した場所を特定することは難しい。
特定できる場合でも、
既に遺体が損壊しており返却できない場合もある。
それは日本でも空襲などを受けた地域で、
すべての遺体が回収できないことと同様なのだ。
のみならず、埋葬に関係した人々が生存しているかどうかも分からない。
結果的に、ハマスが返却した遺体の中には、
人質のものとは確認できないものが混じっていた。
これは常識的には避けられないものと思われるが、
ネタニヤフ氏は「返還遺体は別人」だと激怒、
ハマスが停戦合意に違反したとして、
ガザへの攻撃再開を指示した。
停戦後の死者だけでも数百人規模となっている。
また、組織としてのハマスはほぼ壊滅状態だが、
個々のハマス構成員たちの武装解除は難航している。
これもある意味自然で、
武装解除後は戦争責任の追及が待っているからだ。
責任追及は裁判所が行うとはいえ、
ネタニヤフ政権は超法規的政権であり、
国際機関やアラブ同胞諸国の監視や介入が
当てにできないことは既に判明している。
つまり、ハマス構成員らは自分の身は
自分で守るしかないのだが、
武装解除に従わないことは停戦合意違反だとして
またしてもイスラエルの攻撃を招くことになる。
人質交換や武装解除は停戦合意への
当然の下敷きのように聞こえるが、
ハマスが置かれた現況下では無理難題で、
イスラエルの再攻撃に正当性を与えるものでしかないのだ。
こうしたことは、ネタニヤフ政権が
イスラエル最高裁から内閣の行為を
牽制する権利をはく奪した所から、
軽装備のハマスによる無敵のはずのアイアンドーム突破攻撃、
イスラエル軍のガザへの報復攻撃、
ウエストバンクへの侵攻、レバノンやシリアへの攻撃、
ハマス、ヒズボラ等反対勢力の事実上の制圧、
ガザ停戦合意、攻撃再開に至るまで、
すべてが詰め将棋のような筋書通りであった可能性は否定できない。
筋書以上の成果は、イラン以外のアラブ諸国の沈黙、
シリアのアサド政権の崩壊、イラン空爆によるイランの弱体化、
バイデン政権に勝るとも劣らない
トランプ政権のイスラエル支持といったところではないか?
ガザに平和は来るのだろうか?
ほぼ間違いがないのは、イスラエル建国前のような
パレスチナ国家に戻ることはないだろうことだ。
のみならず、自由がない牢獄状態であれ、
衣食住が足りていた以前のガザにも戻れない可能性が高い。
過去を振り返れば、他勢力に攻め滅ぼされ、
歴史上から姿を消した国や都市、部族は数多い。
ガザはそうした未来の歴史上の謎が、
我々の目の前で展開されているようにも思える。

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