バブルとAIリスク
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こんにちは、矢口新です。
バブルは必ず崩壊する。
崩壊の要因は記憶に残るが、
それは臨界点を超える引き金となっただけで、
バブルは構造的な内部要因により、
時間の問題で崩壊する。
端的に言えば、
仮需がレバレッジを膨らませて実需を置き去りにし、
その高値を支えきれなくなる臨界点に達した時だ。
私は1982年初頭から相場の世界にいるので、
数多くのバブルとその崩壊を見てきた。
しかし、
その後の世界全体を根本から変えたという意味で、
リーマンショックとコロナショック以上のものはなかった。
あえて過去形にしたのは、
AI(ショック)がその余波の止めとなる
可能性が高まっているからだ。
ここではAIエージェントの暴走には触れない。
基本的には
2008年末からリーマン、コロナの後を
継いで続いてきた「(AI)バブル崩壊」の可能性について述べる。
余波が今に続くとするリーマンショックだが、
これを理解するには、
それに先立つ米住宅市場のバブルと
その崩壊を見ておく必要がある。
2007年7月の、いわゆるサブプライムショックだ。
当時に調べたデータを基に、以下に解説する。
米住宅市場を根っこで支えていたのが人口増で、
米国勢調査局のデータ(以下も同じ)によれば、
第二次世界大戦後から2000年までは、
10年間で2桁増の伸びだった。
それが2010年までの10年間は5.9%増に減速した。
主な理由は先進国に共通している少子化で、
それでも伸びていたのは移民が増えていたためだ。
米一戸建住宅価格は、
データが遡れる1963年以降2007年に至るまで、
前年比で下落したのは2回だけ、
2年連続の下落は一度もなかった。
2007年までの10年間では2倍に上昇した。
米家計所得も1963年以降2007年まで
2年連続の下落は一度もなく、
前年比微減が2回だけ、
2007年までの10年間では33%増だった。
つまり、ここでは人口増、
所得増が住宅価格の上昇に繋がっていたことが
示唆されている。
ところが、2008年以降は
数年にわたってこれらの数値が反落する。
その反転の兆候とも呼べる数値が、
2、3年前から出始めていた。
2004年に持ち家比率が
ピーク(69.2%)をつけた。
2005年には新築住宅販売が
ピーク(120万3000戸:1月時比較)をつけた。
2006年には住宅着工件数が
ピーク(227万3000戸:1月時比較)をつけた。
そして、2007年を
ピークに住宅価格が下落に転じたのだ。
このことは、購入可能希望者に
住宅が行き渡り、販売が落ち、
建てられなくなってから、
住宅価格が下落に転じたことを意味している。
十分に納得のいく展開だ。
そして、その間に住宅市場の環境が大きく変化した。
端的に言えば、実需から仮需への変化で、
それが所得の伸びを3倍も
上回る住宅価格バブルをつくり、構造的な崩壊要因を育てたのだ。
市場に実需しかいなければ、
需要に応じて価格の上昇が見られるだけで、
バブルにはならない。
バブルは価格上昇期待で参入し、
自らが価格を押し上げる仮需が作り上げる。
実需が買える価格と、
仮需が買い上げた価格との差が、
バブルの大きさだ。
その時、仮需は値上がり期待だけで買っているので、
値下がり始めると買い手が消えるのだ。
下げ始めると、仮需は売りに転じるので、
実需が待っている水準まで下げる。
一方、バブル期には実需が先食いされているので、
実需が待っている水準は予想以上に低くなっている。
中国の住宅バブルなどは崩壊と見なせる頃から
5、6年ほども経つが、
まだ実需がいる水準が見えないほどだ。
米住宅市場のバブルは仮需だけでなく、
一般国民、特に弱者と呼ばれる低所得者を巻き込んだ。
サブプライムローンだ。
これが実需の先食いにも相当した。
米平均家計収入40~60%の中間層は、
1967年には収入の3.21倍で住宅が買えた。
これが、2007年には4.96倍が必要となった。
69%を超える持ち家比率から見ると、
この層は既に購入済みだったことが推測される。
増収増益を求め続ける
住宅産業は新たな層を開拓する必要があった。
需要を造り出せばいいとなった。
2007年時点で米平均家計収入
下位20%が住宅を購入するには
所得の21.46倍が必要だった。
金融機関はこの層にサブプライムローンを提供した。
サブプライムローンとは
1980年代の金融規制緩和で登場した、
本来の住宅ローンが組めない
低所得者層のための住宅ローンだ。
まだ買えていない層を購買層とすれば、
住宅需要が回復するので
2000年代に入って急速に拡大した。
とはいえ、下位20%の層は
クレジットカードローンの延滞率とも重なる層だ。
クレジットカードローンの利子さえ払えないのに、
所得の20倍を超える物件における
住宅ローンの元利金が払えるのだろうか?
そこで、金融機関は購入対象住宅を担保に取った。
住宅購入者たちが、
住宅ローンの元利金が払えない場合は、
住宅は金融機関のものになるというものだ。
低所得者にとってはとんでもなく
リスキーに思えるが、
初期の購入者たちにはリターンもあった。
値上がりした住宅を転売し、
住宅ローンを期限前に全額返済しても
儲けられる人々がいたからだ。
とはいえ、持ち家比率がピークをつけ、
新築住宅販売がピークをつけるに連れて、
有利な形での転売は影を潜め、
住宅ローンの元利金が払えずに個人破産し、
担保住宅を手放す人々が増えていった。
金融機関にとって、
返済見込みの極めて少ない人に
巨額資金を貸し付けるのだから、
担保住宅の差押えは計算上当然のことだった。
それでも、競うようにサブプライムローンを貸し出したのは、
住宅価格が値上がりしていたからだ。
つまり、自分が貸出した資金で住宅価格を吊り上げて、
高くなった物件を自分のものとして儲けたのだ。
住宅バブルはこのようにして金融機関の仮需が造ったものだ。
見方によれば、低所得者層は
バブルに乗りたい金融機関に「名貸し」をし、
一時的に住宅取得と値上がり期待という
「夢」を買ったことになる。
ところが、金融機関が手にした住宅は値下がりを始め、
不良資産となった。
低所得者層を「騙して」個人破産に
追い込んだ金融機関らは、
自分たちも破綻が免れないようになった。
バブルは構造的な内部要因により、
時間の問題で崩壊するのだ。
私はこうした展開をリアルタイムで
追いかけていたので、
2007年3月期に当時の住友信託銀行が
米住宅ローン証券化商品を全額売り払ったと
新聞報道で読んだ時、
自分と同じ見方をしていたプロがいたことを知った。
そして、同年7月に住宅バブルが崩壊した。
米連銀は住宅バブル崩壊後の
次の会合9月に政策金利を
5.25%から4.75%に引き下げた。
それでもリーマンの破綻を防げず、
2008年9月のリーマンショック後の
11月にはQE1(量的緩和第一弾)を行い、
12月には政策金利を1.0%から0%に引き下げた。
また、2009年からはQE2で保有資産を短期間に数倍にも膨らませた。
これが金融政策の「力技」の始まりで、
後に続く他中銀の大規模量的緩和や
マイナス金利政策、加えて、
コロナ対策といった、
一連の「力技」の先駆けとなった。
その発想はバブルを造ることに近く、
力で市場をコントロールするというものだ。
それが今のインフレに繋がる主因だ。
ちなみに、住宅ローン証券化商品とは、
投資銀行などがSPC(特別目的法人)を設立して
投資家向けに債券を発行するもので、
その資金で金融機関から
個々の住宅ローンを買い取るものだ。
そこから元利金の支払いがあれば、
投資家に債券の金利として支払うことができる。
しかし、住宅ローンの元利金支払いが滞ると
利払いが停滞するので、
投資家は投資銀行などに債券を打ち返す。
投資銀行が持ち切れなくなると、
彼らもより大手の投資銀行に打ち返すことになる。
バブルの崩壊では主導した大手が
最も多くの打ち返しを受けることになるので、
その被害も大きくなるのが常だ。
当時の最大手はリーマンブラザーズだった。
「力技」は持続不可能だ。
政策当局による資金供給も、
財政赤字や公的債務の拡大などという
コストを膨らませているので、
随所に無理が顕在化する。
象徴的には通貨下落に伴うインフレと、
赤字と債務拡大による公共サービスの低下で、
政情が不安定となる。
現在、どの国の政府も、その後始末に追われている状態だ。
同じような意味で、
現在進行中のAIバブルもいずれは崩壊する。
カネ余りをつくってきた
政府当局の「力技」は持続不可能で、
住宅バブルを追い詰めた利上げも進行中だからだ。
2026年9月8日、
アンソロピックでAIを教育していたエンジニアが
同社を退職すると発表した。
その理由は、
「自律的に能力を向上させる
AIシステムの開発を業界全体で競い合うことに関与したくない」
ことだとし、
「そうしたシステムが手に負えない状態に陥り、
人類を滅ぼしかねない」
との懸念を示した。
同氏はAIが今後10年以内に
人類全体を滅ぼす確率を10%だとした。
そのことを受け、
同社のアモデイCEOは業界に対し
AI開発の減速を呼び掛けた。
同氏は「来年にも自律型AIの群れが
世界のインターネット・インフラを乗っ取る可能性がある」
と警告、また、CBSのインタビューでは、
「AI業界はこの技術にリスクがあるという
事実について人々を騙してきた」と断言、
自身も「これほど急速に進化が進んだ場合に
実際にどうなるかをただ完全に理解しきれていなかった」と語った。
ともあれ、この件については
バブルのトピックから外れるので、またの機会に譲る。
業界が「人々を騙してきた」のは、
ビジネス優先でリターンの大きさばかりを謳い、
自分たちは知っているリスクには触れて来なかったからだ。
そのリスクには、
AIがいずれ投資家の資本を食い潰してしまう可能性も含まれている。
ソフトウエアはプログラムを作ってしまえば
追加費用はほとんどかからず、
利用者が増えれば利益も増えていく。
一方、AIは性能が向上するほど計算資源への
投資が必要で、資本効率が低下していく。
日経新聞によれば、
ハイパースケーラー5社(アルファベット、
マイクロソフト、アマゾン、メタ、オラクル)の
投下資本利益率は2023年7-9月期の95%をピークに、
26年4-6月期は13%まで低下した。
追加で100ドル資本を投入すると以前は
95ドルの追加利益を得られたが、
いまは13ドルしか得られないという意味だ。
この傾向は長期金利の上昇が
資本コストを押し上げているために悪化中だが、
更なる悪化が見込まれている。
金利上昇はみずから招いた副作用という面もある。
ハイパースケーラー5社のドル建て社債の発行総額は
26年1-8月が1570億ドル。
すでに昨年1年間の1.7倍に達した。
彼らは30~50年といった超長期資金を奪い合っている。
同紙によれば、
資本利益率が資本コストを下回る交差点は
AIバブルの崩壊につながる
「死の交差点(デッドクロス)」で、
これが宿命的である事情が3つあるとしている。
1つ目は競争に勝ち残るには
巨額投資をやめられない「囚人のジレンマ」。
2つ目は長期金利の制御の難しさ。
3つ目は投資を続ければ死の交差点を越え、
減速すれば半導体や同製造装置など
「ツルハシ」に需要ショックを引き起こす
「悪魔の選択」という事情だ。
参照:AIバブルはこうして終わる 金利高と収穫逓減「死の交差」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB164ZN0W6A910C2000000/
これらは3つとも、説得力のあるものだ。
1) は、AI企業らは
既に巨額資金を費やしているために
引くに引けなくなっている。
また、軍事的な国家覇権すら関わっているために、
企業の経営判断を超えている可能性があるのだ。
一方で、こうした過当競争に勝ち残るところは少数に過ぎず、
多くの破綻は免れないといえる。
2) は、手元資金が少なく、
巨額の有利子負債を抱えているところを中心に追い詰められる。
3) は、競争に勝ち残るところが少数になれば、
いずれにしても「ツルハシ」に需要ショックが引き起こされる。
それでも、アンソロピックは11月に1兆ドルを超える大型IPOを計画していると報道された。来年早々にはオープンAIの大型IPOがそれに続く見通しだ。グッドラックとしかいいようがない。

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