(矢口新)ウクライナ戦争、中国の対応
こんばんは、
矢口新です。
ロシアのミサイルは使えば減り、
戦車や航空機、ヘリコプターは破壊されれば減ります。
一方で、
ウクライナの武器供給には際限がありません。
ロシアは世界と戦っているのです。
ロシアに勝ち目はありません。
負けないためには核兵器に頼るしかありませんが、
米国はそこまではさせないために、
ウクライナのNATO入りを止めさせて停戦に持ち込むのが筋書きでしょうか。
停戦までの時間が長引けば長引くほど、
スラブ人同士の殺戮が続きます。
そして、「ロシアに仲間が現れない限り」、
経済制裁でロシアは衰退して行きます。
ウクライナ戦争は
グローバリゼーションの終わりの始まりだと言えます。
少なくとも、世界がロシアを排除したので、
ロシアのない世界になることは避けられません。
スポーツの排除は冷戦時代にもなかったことです。
これはまた、米ドル覇権の終わりの始まりだとも言えます。
「安心して」対外投資できる時代は終わったのです。
そのロシアが被制裁下の国家として生き延びるだけでなく、
小さくてもそれなりの別世界を築くためには、
仲間の存在が欠かせません。
ロシアが孤立するかどうかの一番大きな鍵を握っているのは、
何といっても経済力、軍事力、政治力で唯一、
米国と何とか対抗できる中国です。
ウクライナ侵攻直前に、
ロシアは中国と「無制限の協力関係」築きました。
それなのに、
アジア・インフラ投資銀行(AIIB)は
ロシアとベラルーシに関するすべての現状と保留中の事業を差し止めしました。
また、中国外務省は中国国有3大エネルギー大手の
中国石油化工(シノペック)、中国石油天然気(ペトロチャイナ)、
中国海洋石油集団(CNOOC)の幹部を呼び、
ロシアのパートナーとの事業関係や現地事業を見直すよう要請したそうです。
そのためシノペックは、
ロシアとの大規模な石油化学投資とガス販売事業に関する協議を打ち切りました。
ダイヤモンド誌に、
「中国の研究者たちによる現状分析、五つのポイント」が載っています。
中国の専門家たちは冷静です。
ロシアの現状を見、習近平がこの助言に耳を傾ければ、
台湾侵攻は遠のいたと言えるかも知れません。以下に引用します。
(引用ここから、URLまで)
「中国戦略思想庫」という中国のシンクタンクが
研究者のスピーチをもとにまとめたある緊急報告書が送られてきた。
その研究者の顔ぶれに私は注目した。
紀明葵(中国国防大学訓練部副教育長、少将)、
王湘穗(退役空軍大佐、北京航空航天大学教授、
軍事戦略関連の著書として広く話題になった『超限戦』の著者の一人)、
黄平(中国社会科学院台港澳研究センター主任)、
喬良(空軍少将、『超限戦』の著者の一人)などだ。
報告書の主な内容を簡潔にまとめてみた。
一つ目のポイント
~プーチンは世界の変化に鈍感だった
プーチン大統領は世界の変化と趨勢を認識しておらず、
本当の意味での勝利を得ることが難しい。
今回の戦争の交戦側であるロシアとウクライナは、
いずれも戦争の被害を受けることになるだろう。
戦争開始早々、ロシア軍の行動は慌ただしく準備不足ぶりをさらけ出した。
この二十数年の間に世界は大きく変化していたが、
プーチン大統領はそれに対する認識不足で、
戦争が及ぼす影響の深さを予断することもできなかった。
今日の戦争は単なる軍事衝突や都市や領土の占領を内容とするものではなく、
多分野から多様な形で参戦できる範囲の広い経済戦である。
国土の問題は、もはや戦争で最も重要な内容ではなくなっている。
プーチン大統領はたとえ戦争で勝利したとしても、
さらに大きな代価を払うことになるだろう。
現在、ロシアはあらゆる方面からの制裁に直面している。
二つ目のポイント
~欧州は後退
欧州は客観的にはNATO(北大西洋条約機構)に依存せざるを得ないが、
主観的には米国からの独立がより切実になる。
欧州はこの戦争で何の利益も得られないだけでなく、
欧州統一の歩みが遅くなり、
大きく後退することになるだろう。
三つ目のポイント
~平和な世界に戻れない
世界規模でエネルギー供給と貿易が影響を被り
世界が再び平和な時代に戻ることは難しい。
戦争がどのような規模まで拡大するのかは現時点で判断することが困難だが、
ユーラシアの秩序がすでに乱れてしまったことは確かだ。
ロシアとウクライナの戦争は世界的な秩序失墜の幕を開け、
世界は平和な時代に戻ることが難しくなっている。
四つ目のポイント
~クライマックスはこれから
米国の軍需品を大量に必要とする今回の戦争は
米国国内の金融危機の緩和につながる部分もある。
米国国内の金融危機を解消するという目的が達成されない限り、
米国が戦争の終結を簡単に呑めないだろう。
そのため、現段階はまだ戦争の序幕にすぎず、
クライマックスはまだ訪れていない。
五つ目のポイント
~中国がロシアに寄りすぎるのは危険だが、米中緩和の可能性も
ロシアを支持するが過度に依存する必要はない。
米中関係は緩和するかもしれないが、
警戒意識は保たなければならない。
この戦争は中国にとって、ロシア、米国との関係をうまく処理し、
危機をチャンスに変える試練である。
ロシアが完全に倒れることは中国にとって不利で、
この戦争でロシアが中国により接近することになり、
中国はひそかにロシアを支持することはできるが、
ロシアに寄りすぎてはならない。
戦争が終わればロシアは中国にさらに依存し、
中国のエネルギー需要はよりよく解決でき、
貿易面では欧州に取って代わるチャンスが生まれる。
しかし、戦略的にロシアに依存してはいけない。
中国の国力はその10倍もあり、軍事的にも自らを守る能力がある。
今回の戦争は米中緩和に可能性をもたらした。
だから、
その可能性が存続する期間中はチャンスとして
うまく利用しなければならない。
かといって、
中国封じ込めの目標を捨てない米国に幻想を抱いてはならない。
バイデン政権時代に、
両国の関係を緩和する機会をつかまなければならない。
トランプ政権がまた誕生したら、
グローバル化はさらに後退し、米国の北米引きこもり、
ドイツの再武装、ロシアと欧州の接近、
日本の「正常化」、韓国とインドの台頭などにより、
中国の外部環境、特に周辺環境が悪化するだろう。
短期的には、
中国は米国を跳び越えて世界の舞台の中央に進んではならない。
世界の政治構造から見れば、
いずれ中国と米国の共同統治への移行段階に入るだろう。
しかし、米国の戦略の重心が
ずっとアジア太平洋から他のところへ移っていない。
それは、
その戦略的交渉の対象が依然として中国であることを示している。
そのため、中国も西側のそばに立つことを選んでも無駄だ。
欧米は中国の台頭を受け入れないからだ。
これについては冷徹な認識を保たなければならない。
六つ目のポイント
~中国政府への提案
中国が中立を保ち、慌てて対応する必要はなく、
世界新秩序の構築を主導する戦略的時期として
今をとらえなければならない。
ロシア・ウクライナ問題に対して、
我々は中国政府上層部の参考に供するために、
以下のことを提案する。
第一に、今回の戦争が長引けば長引くほど、
欧米とロシアの三者が力を消耗し、
中国に有利なので、戦争の終結を急がせる必要はない。
ただ、警戒しなければならないのは、
米国が参戦すれば戦争が暴走する恐れがあり、
核戦争の勃発は絶対に避けなければならないことだ。
第二に、ロシアであれ、米国であれ、欧州であれ、
各方面の求めに中国は急いで応じる必要はない。
各方面が消耗しきって維持できなくなりそうな時こそ、
中国が登場するベストタイミングだ。
第三に、中国は戦争に巻き込まれてはならず、
現在の中立姿勢を保つべきだ。
戦争期間中の調停、戦後の新秩序構築の主宰に対して、
現在の中国が保つ中立的な態度は、
将来仲裁者の役割を担うのに有利になるだろう。
特に、米国のわなにはまって中国が完全にロシア側に寄りかかってしまえば、
西側の世論が作りだした「中ロが悪の枢軸」論に乗じてしまう。
そのような材料を提供してはならない。
第四に、中国は国家主権と領土保全の尊重を旗印に、
戦後世界の新秩序と新局面を再構築しなければならない。
いかなる国も他国の領土と主権の完全性を尊重しなければならないことを断固主張し、
世界の理解と賛同を得なければならない。
世界の主流の価値観に順応し、
大多数の国の支持と呼応を得てはじめて、
中国は新世紀の指導者になることができるだろう。
第五に、中国は仲裁者とルール制定者になり、
積極的にグローバルガバナンスを主導することを学ばなければならない。
いまはいかなるメカニズムも、人手も、経験もないので、
現時点から考え、準備する必要がある。
当面の情勢は中国にとって一つの契機であり、
中国は世界の危機を中国の戦略的チャンスに変え、
国際秩序を公正、合理的な方向に発展させ、
グローバルガバナンスを積極的に主導しなければならない。
以上のような考え方を、緊急報告書は提示している。
参照:中国シンクタンク「ロシアに寄りすぎてはダメ」緊急報告に見える国際戦略
https://diamond.jp/articles/-/300007
ここに、さらに簡潔にまとめてみましょう。
1、国土の問題は、もはや戦争で最も重要な内容ではなくなっている。
2、欧州はこの戦争で何の利益も得られない。
3、世界は平和な時代に戻ることが難しい。
4、米国は戦争の終結を簡単に呑めない。
5、欧米は中国の台頭を受け入れない。
6-1、戦争の終結を急がせる必要はない。
6-2、各方面が消耗しきった時に、中国が登場すればいい。
6-3、中立的な態度は、将来仲裁者の役割を担うのに有利になる。
6-4、中国は国家主権と領土保全の尊重を旗印に、世界の主流の価値観に順応し、大多数の国の支持と呼応を得てはじめて、新世紀の指導者になることができる。
6-5、国際秩序を公正、合理的な方向に発展させ、グローバルガバナンスを積極的に主導せよ。
中国の専門家たちは事態を冷静に分析し、
国益に沿った助言をしているようです。
「6-1、戦争の終結を急がせる必要はない」、
「6-2、各方面が消耗しきった時に、中国が登場すればいい」
と、非常に戦略的です。
今週の矢口塾のコラムで紹介している
「オリバー・ストーンの報道ドキュメンタリー」と、
この報告書を合わせれば、
ウクライナ戦争の原因と結果がおおよそ見えてこないでしょうか。
参照:Revealing Ukraine 2019『乗っ取られたウクライナ』日本語字幕https://rumble.com/vxurg7-revealing-ukraine-2019.html
ウクライナは米国の意のままにNATO加盟に動き、
ロシアの侵攻を呼び込みましたが、
ロシアは中国との同盟関係がなければ、
踏みとどまっていたかも知れません。もう米中の時代は始まっているのです。
また、この報告書の興味深いところは、
「国土の問題は、もはや戦争で最も重要な内容ではない」、
「世界の主流の価値観に順応し、大多数の国の支持と呼応を得てはじめて」
などと、プーチンの暴走を反面教師に、習近平の暴走にも釘をさしていることです。
ここで示唆されていることは、ロシア、ウクライナを筆頭に、
欧州の没落が始まったことです。
日本を含む西側は、
ロシア制裁のコストを鑑みれば、米国の踏み台となりました。
そして、この戦争が長引くほどに、
また制裁が長引くほどに、米国以外の西側が衰退していきます。
つまり、中国などの第3勢力は、
待てば海路の日和ありなのです。
そして、
米国と中国とが世界を2分する時代に備えよとしています。
西側ではないインドやイスラム圏も、
中国と同様に「静観」しているのではないでしょうか。
「インドはロシアとの通商関係を重視。
ラブロフ外相が訪印。より多くの取引が成立しており、
すぐに取引が縮小する兆候はほとんどない。
ロシアの銀行に対する西側の制裁によって
中断された貿易決済の円滑化について両国が話し合う」とのことです。
とはいえ、インドは中国との対抗上、
西側との関係維持は崩していません。
「アラブ首長国連邦のエネルギー兼インフラ担当相は、
世界中の政府がウクライナでの戦争を巡ってこの原油輸出国を
回避しているにもかかわらず、
ロシアは常にOPEC+の構成国であり続けると主張した。
OPEC+として彼らが我々に話す時には、
彼らはロシアを含めた我々に話す必要がある」という。
一方で、
中東の機関投資家の間でもロシアに対する投資を凍結する動きが出ています。
「アラブ首長国連邦アブダビ首長国の政府系ファンド、
ムバダラ・インベストメントのハルドゥーン・ムバラク最高経営責任者は今週、
ドバイで開かれた投資会議で、こうした環境では、
ロシアの市場に対する投資を停止しなくてはならないのは明らかだ」としました。
イスラム圏のNATO加盟国、
トルコはNATOにもロシアにも加担せず、
第3勢力の立場を維持しています。
これらの国々の態度は、
リスクはありますが、リターンも大きいと思われます。
一方で、他の新興国市場への資本流入が続いているにもかかわらず、
中国の株・債券から大規模な資本の流出が見られています。
2月は外国人投資家の中国国債保有が過去最大の減少を記録しました。
また、香港欧州商工会議所の最新調査によれば、
欧州企業で1年以内に香港から全面移転する計画が約25%、
部分的な移転予定は24%に上りました。
約34%がまだ分からないと答え、
今後1年の移転計画はないとの回答は17%にとどまりました。
米国企業も同じような調査結果が出ています。
「世界は平和な時代に戻ることが難しい」。
グローバリゼーションの終わりが始まったのです。
<講師プロフィール>
矢口新(やぐち あらた)
1954年生まれ。
金融業界の第一線で30年以上にわたり活躍し続け、
プロディーラーにも師と仰がれる天才ディーラー。
東京・ニューヨーク、ロンドンと世界3大金融市場で活躍し、
さらには為替、債券、株のすべてに関わるという
非常に稀有なキャリアを持つ。
相場を動かすプロの裏の裏まで知り尽くしており、
投資を真剣に学びたいという意欲ある方々との交流にも熱心。
■ 本日の出来高急増銘柄
※上昇銘柄の推奨などではありません。
※投資の学校の全講師の手法に使える、
銘柄選びの考え方です。
なぜ、
出来高急増銘柄が注目なのか、その理由と、
本銘柄を抽出した根拠はこちら。
→ https://youtu.be/xAVWjxMIq4c
売買の際には、ご自身でチャート分析、
ファンダメンタルズ分析を行っていただき、
売買をする際には自己責任にてお願いします。
【1】エムスリー(2413)
株価(終値):4,821
日付:4月5日
売買代金(千円):22,780,190
【2】Zホールディングス(4689)
株価(終値):518
日付:4月5日
売買代金(千円):15,394,480
【3】楽天グループ(4755)
株価(終値):1,030
日付:4月5日
売買代金(千円):14,392,170
【4】BASE(4477)
株価(終値):520
日付:4月5日
売買代金(千円):12,759,740
【5】ウェルスナビ(7342)
株価(終値):2,582
日付:4月5日
売買代金(千円):12,374,880
*ランキングは売買代金の
総額に基づく順位を示したものです。
*この銘柄一覧は、
特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。
この記事へのコメントはありません。