アップル貯蓄口座と、取り付け騒ぎへの対応
From矢口新
この4月、
アップル社はゴールドマンサックスと提携し
金利4.15%の貯蓄口座を開設した。
しかし、
顧客から資金の引き出しが困難だとのクレームが相次ぎ、
解約する人たちも出始めたという。
以下はウォールストリート・ジャーナルから。
(部分引用、ここからURLまで)
アトランタ郊外に住むネイサン・サッカー氏は
同氏のアップルの口座からJPモルガンチェースへ1700ドルを送金しようと
5月15日から試みていた。
同氏がゴールドマンのカスタマーサービスに電話する度に、
2、3日待つようにと言われたと、同氏は述べた。
同氏のチェースの口座には6月1日の朝に着いたと同氏は述べた。
ウォールストリート・ジャーナルが
同氏や他の顧客に起きたことについて、ゴールドマンに問い合わせた後だった。
他の人々もまた、
アップルの新口座から送金にトラブルがあったと述べた。
預金を管理しているのはゴールドマンだが、
同社のカスタマーサービスに尋ねても、回答はさまざまだったという。
移そうとしたお金がアップル口座にも移動先にもなく、
消えてしまったように見えることもあった。
ゴールドマンは、個別の案件についてはコメントできないとした上で、
「大半の利用者は資金の移動に遅れは生じていないと考えているものの、
限られたケースでは、口座保護のために設けたプロセスにより、
送金の遅れを経験することがある」と説明した。
新設の口座から残高の大半を送金しようとすると、
マネーロンダリングなどセキュリティー上の懸念から追加の審査が必要になり、
こうした手続きによる遅れは通常5日ほどだという。
また、元の口座から新設の口座に移した多額の資金を、
さらに別の口座に振り込もうとする場合も、危険信号とみなされることがある。
参照:Apple Customers Say It’s Hard to Get Money Out of Goldman Sachs Savings Accounts
https://www.wsj.com/articles/apple-savings-account-customers-say-its-hard-to-get-their-money-out-of-goldman-sachs-bd8b9ccb
一方、私は4月17日にお伝えした「SVB型『取り付け騒ぎ』への対応」で、以下のようにコメントした。
「しかし、ここで最も恐いのは『5、SNSに煽られる取り付け騒ぎは今後も予想される』というものだ。
2021年の時点でも、米国の預金口座へのアクセスはオンラインやモバイルといったデジタルバンキングが約7割に達していた。SVBは1日だけで預金残高の4分の1に及ぶ引出し要請がデジタルバンキングを通じてあった。こんな預金引出しの急増が殺到すれば対応できる銀行はどこにもない。
例えば、預金に見合う資産である銀行貸出の急な引上げは不可能どころか、国や地域経済を破壊する。証券投資で、当日に現金化できるものは何もない。つまりこのスピードの取り付け騒ぎに対応するには、銀行は預金を預かるだけで、現金をそのまま保有せねばならないことになる。これは資金を死蔵することを意味し、銀行の存在そのものの意義が問われることになる。
つまり、SVB問題では、個々の銀行では到底対応できない大問題を突きつけられているのだ。
とはいえ、解決策のヒントはある。3月9日の時点で、SVBはサンフランシスコ連銀などに支援を要請したという。しかし、当局ですら急な要請には応えられなかったのだ。
必要なのは、市中銀行のハブとなり、中央銀行とも直結する『決済専門銀行』の設立だ。日本であれば、銀行間の資金のやり取りを仲立ちするブローカー(短資会社)の機能を大幅に拡充し、これまで以上に日本銀行との繋がりを強固にすることだ。
SNSの発展、オンラインバンキングへの流れを逆流させることができない以上、金融システムもそれに対応したものにする必要がある。また、厳罰の対象とすべきは、通常の経営を行って破綻した銀行の経営陣ではなく、『取り付け騒ぎの原因となったツイートを行った者たち』だ。次の破綻を防ぐには、厳罰の対象を間違えない必要がある。
私は少なくとも日銀や短資会社などが、『決済専門銀行』設立の方向を検討していると信じたい。SVBの破綻を個別行の問題だと考えているとすれば、次の危機は避けられないかと思う。」
参照:SVB型「取り付け騒ぎ」への対応
https://ameblo.jp/dealersweb-inc/entry-12798903373.html
アップルの貯蓄口座が現在4.15%の金利を提供できるのは、同社がMMFで運用すると5%以上の利回りが得られることも大きい。MMFは個人でも買えて、日本の証券会社を通じてでも、6月2日時点で4.364%~4.604%の金利が得られていた。金利が欲しくても上記のようなストレスを回避するには、アップルの貯蓄口座は避けた方がいいのかも知れない。
「取り付け騒ぎ」への対応という意味では、ゴールドマンサックスの貯蓄口座の扱いは完璧だ。その意味では、「オレオレ詐欺」や「マネーロンダリング」対策だとして、個人が1回に大きな資金を動かせない日本の銀行の対応も「取り付け騒ぎ」回避に役立っている。
こうした状況を鑑みれば、決済専門銀行がなくても、「SNSに煽られる取り付け騒ぎ」は回避可能かも知れない。
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