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(矢口新)ドル円130円超えなのに、日銀はマイナス金利政策を継続

From矢口新

今回は、前回のメルマガの最後に伝えた通り、
「ドル円130円超えなのに、日銀はマイナス金利政策を継続」
詳しく解説する。

日銀は4月28日の金融政策決定会合において、
以下の声明文にあるような超緩和的金融政策の維持を決めた。

(声明文から注記と参考以外の本文すべてを引用)

2022年4月28日、日本銀行
当面の金融政策運営について

 

1.日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下のとおり決定した。

(1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(賛成8反対1)(注1)

1.次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。

短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高に▲0.1%のマイナス金利を適用する。

長期金利:10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、

上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。

2.連続指値オペの運用の明確化

上記の金融市場調節方針を実現するため、10年物国債金利について0.25%の利回り

での指値オペを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、

毎営業日、実施することとした。

 

(2)資産買入れ方針(全員一致)

長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

1.ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、

年間約1800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。

2.CP等、社債等については、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、

買入れ残高を感染症拡大前の水準

(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に戻していく。

2.日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、

これを安定的に持続するために必要な時点まで、

「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。

マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の

前年比上昇率の実績値が

安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。

当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、

企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、

必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、

現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している(注2)。

以 上

 

参照:当面の金融政策運営について(注1、2は賛否委員の内訳)
https://www.boj.or.jp/announcements/release_2022/k220428a.pdf

この会合で新たに加わった大きな変化は、「連続指値オペの運用の明確化」だ。

「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、

上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う」

金融市場調節方針を実現するため、

10年物国債金利について0.25%の利回りでの指値オペを、

明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施することとしたことだ。

参照:連続指値オペの運用等について
https://www.boj.or.jp/announcements/release_2022/rel220428e.pdf

これを毎営業日、少なくとも次回に金融政策決定会合が開かれる

6月16日(木)、17日(金)まで続けることを明記した。

ドル円は、3月初めからの2カ月間で13%以上上昇しているが、

日銀は頑として超緩和的金融政策の維持を決めたことになる。

一方で、大半の国の中央銀行は利上げを行っているので、

円と諸外国通貨の金利差は広がり続けることになる。

この辺りの理由は、黒田総裁の答弁を参照して頂きたい。

参照:総裁記者会見要旨:2022年4月28日(木)午後3時半から約60分
https://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2022/kk220502a.pdf

 

国債とは、国(財務省)の借金証書のようなものだ。

その金利が0%だということは、

国は金利を全く支払わずに借金できることを意味する。

これは年金や生保、銀行、債券投信といった資金運用者にとっては、

日本国債で運用しても全く金利が得られないことを意味している。

ここで外国通貨の金利が上昇していくと、外国債券で運用(外国人に貸し出し)すると

より多くの金利が得られることになるので、円売り外貨買いの需要が高まることになる。

一方で、高金利は信用力が低いことを意味することが多いので、

当該通貨の下落で反対に損失を被ることも少なくない。

 

とはいえ、図01に見られる国々は、いずれも日本よりはるかに信用力が高い

(借金返済能力が高い)国々だ。

それらの国々の金利が、右端に見られるように上昇し始めている。

これは間違いなく円安要因となる。

つまり、日銀は円安を放置したと言えるのだ。

参照図01:ドル円レートと主要国の政策金利の推移(2002年~、出所:各国中銀)

 

金利差拡大は間違いのない円安要因なのにも関わらず、図01の左側を見れば分かるが、

必ずしも実際の円安を意味していない。

この図では青色で0%近辺に張り付いているのが円金利だ。

サブプライムショック、リーマンショックまでの各国の金利が

最低のスイスフランでも3%近くまで上昇したのに対して、

円金利は1997年4月以降0.50%を超えたことがないのだ。

つまり、この時期には金利差が拡大したのに、円高が進んだことを示している。

 

理由の1つは、為替ヘッジだ。

 

ヘッジコストは金利差に相応するので、元本から利子まですべての

キャッシュフローをヘッジすると、金利差は残らない。

信用リスクや取引手数料などを鑑みると、むしろコストの方が高くなる。

 

もっとも、長期金利より短期金利の方が低い通常(ノーマル)時には、

金利の高い長期債を保有しながら、

低い3カ月金利でヘッジすることで、金利差を残すことができるのだが、

それがいつもノーマルだとは限らない。

あるいは、1部にはヘッジをかけない為替リスク・オープンで保有し、金利差を取っていく。

これらが示唆しているのは、金利差拡大の円安効果はヘッジをかけた分だけなくなることだ。

とはいえ、国内にまともな運用先がない日本の年金や生保、銀行、債券投信に、

日本政府よりも低い信用リスクでこれだけの金利が提供されていることは、

円安要因であることには間違いがない。

しかし、実際には円高が進行した。

これは円安を示唆していた金利差よりも大きな円高要因があったことを暗示している。

それを示したのが、下図02だ。2010年までの貿易黒字の間は円高トレンドが続き、

2011年に貿易赤字になってから、ドル円は大底を打った。

赤字の最大要因は大震災による天然ガス輸入の急増だ。

参照図02:ドル円レートと日本の貿易収支(2002年~)


今年の貿易赤字は過去最大に迫るペースだ。

エネルギー価格や食料価格がこのままで横ばっていたとしても、

これくらいの赤字額になる可能性がある。

もし、もっと上昇したり、あるいは運送費などが上昇したりすると、

貿易赤字は過去最大になる可能性すらある。

それでも停電を避けるには天然ガスを買い続けるしかない。

原子力の「安全、安定、安価」神話は崩壊し、

CO2削減の観点からは石炭発電に戻ることはできないからだ。

すべては、過去何十年間かの経済政策のつけだ。

日本は再生可能エネルギーで世界に先行していたのに、

今では大きく後れを取り、電源の約8割は輸入に頼る化石燃料だ。

原子力発電を再開しても、ウランを輸入に頼ることには変わりがない。

また、今回のロシアのウクライナ侵攻でも明らかになったように原発は安全保障上で

危機管理ができないほどのリスクがある。

何しろ、停電でも原子炉を冷却できなくなって危ないようなのだから。

参照図03:日本の電源(出所:ブルームバーグ)


EUはエネルギー源のロシア依存脱却を進めているが、化石燃料は電源の4割ほどだ。

また、再生可能エネルギーも4割ほどある。

参照図04:EUの電源(出所:ウォールストリート・ジャーナル)

 

 

エネルギーと食料を海外に依存している日本は、それらの価格が上昇しても買い続けるしかない。

ここに金利差も開いて行き、円を買ってくれる海外旅行者も受け入れないとなると、

円安が止まる見通しが立たなくなる。

そして、円安の進行は同じドル金額の輸入により多くの円貨が必要となることを意味し、

更なる貿易赤字の拡大、更なる輸入物価の上昇に繋がることになる。

貿易赤字、円安、インフレの負のスパイラルだ。

一方、日銀が利上げを渋る理由の1つには、国債費の上昇がある。

日本国債の残高は増え続けてきたが、

超低金利を継続してきたおかげで、利払い費は減り続けてきた。

それが、2020年度にはマイナス金利政策を続けているのに、

遂に19年ぶりの水準に急増したのだ。つまり、超緩和的政策を止めることは、

利払い費急増に拍車をかけることを意味しているのだ。

参照図05:利払い費と金利の推移(出所:財務省)

 

 

とはいえ、円金利を上げて国内の需要を減らそうにも、エネルギーや食料の需要が減るわけではない。

海外発のインフレが止まるのも、海外頼みとなっているのだ。

世界最悪の累積財政赤字と公的債務、マイナス金利、

GDPをはるかに超える資金供給、中央銀行による株式保有などと、

日本は財政政策も金融政策も出し尽くしたと言える。

それでも何とか回っているのは、民間に資金があり、その信用力を海外も評価しているからだ。

とはいえ、インフレに無防備となっているように、そうした過去の遺産頼みにも限界が来ている。

だからこそ、私は1988年度以前の税制に戻す必要があると述べている。

参照:日本が幸せになれるシステム・65のグラフデータで学ぶ、

年金・医療制度の守り方(著者:矢口 新、ペーパーバック版)
https://www.amazon.co.jp/dp/B09NRWJLY7/

 

 

<講師プロフィール>

矢口新(やぐち あらた)

1954年生まれ。
金融業界の第一線で30年以上にわたり活躍し続け、
プロディーラーにも師と仰がれる天才ディーラー。

東京・ニューヨーク、ロンドンと世界3大金融市場で活躍し、
さらには為替、債券、株のすべてに関わるという
非常に稀有なキャリアを持つ。

相場を動かすプロの裏の裏まで知り尽くしており、
投資を真剣に学びたいという意欲ある方々との交流にも熱心。

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