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(矢口新)ビットコインに全てを出資。そして大暴落

From矢口新

先週のウォールストリート・ジャーナルに、
以下のような記事が載った。

「エルサルバドル大統領、ビットコインに全てを出資。そして大暴落」。

ビットコイン価格の急落は、
至る所で暗号通貨の投資家たちを痛めつけている。

その危険の度合いは、
中米の債務国エルサルバドルで特に高い。

大統領が何億ドルもの納税者の資金を使ってビットコインを買い、
国の法定通貨として本格展開しているからだ。

同国が計画していたビットコイン価格の上昇に賭ける
10億ドルのエキゾチック・ボンドの発行は行き詰っていると、
同国の当局者たちは述べている。

また、エルサルバドルの1億ドルのビットコイン保有の時価総額は約3分の1減少し、
同国の財政をさらに圧迫し、240億ドルを超える国債が債務不履行する可能性
高めていると、エコノミストたちは述べる。

ナイブ・ブケレ大統領の政権は同国の債務支払いを確約している。

国債の債務不履行はブケレ氏の将来の再選の望みを妨げる可能性があるため、
「政府はそれを避けるために全力で何でもするだろう」と、
カルロス・アセベド元中央銀行総裁が述べた。

参照:El Salvador’s President Went All In on Bitcoin. Then It Tanked
https://www.wsj.com/articles/el-salvadors-president-went-all-in-on-bitcoin-then-it-tanked-11652540400

ビットコインの値下がりで苦しむのは投資家たちや、
ビットコインでの支払いを受けた商店、企業だけではない。

マイニングという認証作業を労力やコストをかけて行い、
その報酬をビットコインで受け取った者たちも同じだ。

電気代を含む多くのモノの値上がりで、
ビットコインなどの仮想通貨やNFT(鑑定書付暗号資産)のマイニングのコストが上がる一方で、
仮想通貨の値下がりで報酬が急減している。

コストや労力に見合わないものになってきているのだ。

このことについて、
エルサルバドルがビットコインを法定通貨にした時に書いたコメントがあるので
ご紹介する。

ブログには英文で載せているので、日本文をここに掲載する。

・ビットコインが法定通貨に

エルサルバドルで、2021年9月7日から
ビットコインが法定通貨として採用されることになった。

ビットコインは通貨としての体裁をなさないので、
テスラなどの民間企業ならともかく、
一国の政府や通貨当局がこのような決定を行うことは信じられないことだ。

エルサルバドルには通貨取引の専門家やエコノミストがいないのだろうか、
それとも私自身の「常識」が時代遅れになってきたのだろうか。

エルサルバドルには自国通貨としてのコロンがあったが、
2001年1月より全面的に米ドルに変更した。

現在は米ドルのみが流通しているとのことなので、
今週からは米ドルとビットコインが共に法定通貨として流通することになる。

いずれにせよ、
通貨に付随するはずの金融政策をエルサルバドルが決めることはできない。

仮に国内で流通している米ドルやビットコインに、
独自の政策金利などを適用すると、
国外で流通している米ドルやビットコインのレートとの乖離が生じることになる。

これまでのビットコインは法定通貨ではないので、
テスラなどの民間企業は、例えばビットコインが2万ドルならば決済通貨として認め、
5万ドルならば止めるとしてきた
(テスラ車をドル建てだけにするより2倍以上の価格で売れる)ように、
少なくとも規制がない現状では、
自己に有利な時にだけビットコインを使っていいとできてきた。

一方、法定通貨となると、
エルサルバドル国内では受け取ることを拒否できないのが建前だ。

でなければ、法定通貨として定めた政府や通貨当局のメンツが丸つぶれになる。
これは国内企業だけでなく、
同国に進出している国際企業にも適用されると考えるのが自然だ。

そうなると、エルサルバドルの消費者は
米ドルとビットコインのレートを常に比較して、有利な方だけを使えるようになる。

このことは、受け入れ側とすればいつも不利なレートで
モノやサービスを提供することを意味する。

この時、米ドルとビットコインの価格変動が大きいと、
提供者は常に大損するリスクに曝されるので、通常な商行為は成立しなくなる。

これではエルサルバドルの経済は破綻する。

ここで、通貨代替としての機能を持つ商品券を例に、
通貨とは何かを考えてみよう。

商品券がどこで使えるかは、商品券の発行元の信用力に依存する。

例えば、大手クレジットカード会社の商品券は基本的にどこでも使えるが、
スーパーが発行すれば使えるところが限定される。

地元の商店街が発行すれば、地元の商店街でしか、本来の価値をもたない。

同じ額面の商品券を金券ショップに持ち込めば、
それらの「流通価値」が概ね分かる。

概ねと言うのは、価値判断は場所や時期や、嗜好などによって変動するからだ。

極端に言えば、私でも孫相手に家庭内だけで流通する通貨を発行できる。
もしかすると、それは日本円以上の価値を持つかも知れない。
しかし、それは家の外では単なる紙切れだ。

ビットコインには通貨や商品券のような発行元がない。
信用力に代わるものはブロックチェーンと呼ばれるデジタル台帳だが、
その認証行為にはPCや電気代などの多額のコストがかかっている。

そのコストはビットコインで支払われるので、
コストに見合う価格を維持し続ける必要がある。

もし価格がコストを下回ると、誰も認証行為を行わなくなり、
ブロックチェーンのシステムは崩壊する。

あるいはごく少数者だけが認証するので、改ざんされるリスクが高まってしまう。

それを通貨として認める者がいることは何ら問題がないが、
どこでも受け入れられると思い込むことは間違いだと分かる。

また、過去1年間の対ドルでの値動きをみると、
トルコ・リラ、ブラジル・レアル、南アフリカ・ランド、メキシコ・リラなどが
大動きしたが、それでもビットコインの値動きの1割も動かない。

これは、ビットコインを法定通貨として
モノやサービスを購入する際の決済として使うと、
モノやサービスの価格が10倍以上も上下することを意味する。

これでは決済通貨として機能しない。

つまり、ビットコインを法定通貨としたエルサルバドルの決定は、
単に混乱を与えるだけで、誰も使わない、
誰も受け入れないことが、同国の経済にとって最良のことだと分かる。

これが私の見方だが、エルサルバドルの政府や通貨当局の関係者は、
通貨というものをどのように見ているのだろうか?

参照:2021-09-08 06:53:42
Crypto has to be supported by speculators
https://ameblo.jp/dealersweb-inc/entry-12696703841.html

また、2022年2月21には以下のタイトルのコラムも書いている、
長文なので一部要点だけを以下に掲載する。

・ビットコインと通貨の価値

「ビットコインの価値を示すのが米ドルであり、その価値が大きく変動するものであるのなら、

消費者と商店の利害は真っ向から対立するはずだ。

この点で、日本円と固定価格で流通するポイントや商品券とは全く違う」

「2022年1月25日に、IMFはエルサルバドル政府に対し、『ビットコインの法定通貨としての地位を取り除き、

ビットコイン法の範囲を狭めるように』勧告したことが分かった。

『金融や市場の整合性、金融の安定性、消費者保護に大きなリスクを伴い、偶発債務を生む可能性がある』としている。

2月9日には、世界3大格付け会社の1つフィッチ・レーティングスがエルサルバドルの債務格付けを、

B-からCCCに、2段階引き下げた。BB+以下は投機的水準、いわゆるジャンクなので、

投資適格のBBB-まで行くには8段階上がることが必要だ。

引き下げた理由として『政策の予測不可能性』と、『ビットコインの法定通貨への採用』とを挙げた」

これがどういう意味なのか、
簡単に説明する。

ビットコインの対米ドル価格は、
2021年11月前半に68000ドル以上に上昇した。

その後1月下旬には34000ドル以下にまで低下した。
つまり、3カ月も経たないうちに価格は半減した。
参照図01:
https://ameblo.jp/dealersweb-inc/entry-12728022703.html

これをトレーディングの対象と見るならば、何の問題もない。
短期間でこれだけの利益が上げられる可能性があるからだ。
損切りルールさえ守れば、リスクも限定できる。

しかし法定通貨とすれば、これは、ドル円115円だったものが、
短期間で230円になるようなインパクトがあることを意味する。

日常的に通貨危機に見舞われるような状態となるのだ。

これが法定通貨として、例えば給与で支払われると、
毎日の買い物が投機的となる。

毎日が実質的な値下げや値上げなので、
買い溜めや買い控えも当たり前となる。

そうならない場合とは、1ビットコインは1ビットコインだとして、
世界的な価値の変動を知らないだけなのだ。

また売り手の方も、米自動車メーカーのテスラが行ったように、
10万ドルのテスラ社1台をビットコインが25000ドル(テスラが4ビットコイン)の時は受け入れるが、
50000ドル(2ビットコイン)の時には停止するような、
それだけで売上が2倍となるような芸当が許されるならばいいが、
法定通貨として、受け入れを義務付けられると、毎日、毎月の売上が、
ビットコインの価格変動に連動するようになる。

そんなことはない。10ビットコインの売上は10ビットコインだと思っている企業は、
米ドルに交換して巨利を貪ることができる本当の価値を知る者に
食い物にされているだけなのだ。

仮に社会全体がビットコインの価値を知れば、
ビットコインが高い時には、消費者が殺到して、企業や商店の破綻が増え、
安い時には消費者はインフレでモノやサービスが買えないことも起こりうるのだ。

これが、『金融や市場の整合性、金融の安定性、消費者保護に大きなリスクを伴い、
偶発債務を生む可能性がある』とされる理由だ」

「私が見る通貨の本質的な価値は流動性だ。流動性が高いとは、

いつでもどこでもどんな量でもより安定的に売買できることで、

別の表現では『使い勝手が良い』ことだ。

その流動性を支える4つの要素が発行国が提供する信頼感、

貿易における決済機能、金融市場の開放性と大きさ、

そして、闇市場を含め誰にでも受け取ってもらえる利便性だ」

 

「現時点での暗号通貨も流動性に欠けている。取引所内で流通していることを除けば、

現時点でモノやサービスの提供者が暗号通貨での支払いを受け入れていても、それがいつまで続くかの保証はない。

仮に商業取引で誰も受け取らなくなると、取引所の外では突然無価値になるというリスクを抱えている。

商店やメーカーが暗号通貨のように価格変動の大きなものを受け入れると、

売上高や利益が大きく振れることになるので、

一定量以上は受け取れないからだ。

また、取引所が400を超え、暗号通貨の種類も6000を超えるので、

個々のままでは流動性が増す可能性も限られている。

その意味では、マイニングやトレーディングで暗号通貨に直接関わっている人以外には、

使い勝手が甚だしく悪いと言わざるを得ない」

 

「MMT (Modern Monetary Theory) のように、状況次第では財政赤字など気にする必要はないとする説がある。

仮にそうであれば、財政赤字削減に必要な税収はいらないことになる。

世界各国は徴税など止め、まぎらわしい財政収支の記録や報告など止めて、

財政資金はひたすら印刷すればいいことになる。

これは日本政府を含め、多くの累積赤字や公的債務を抱える国々には

願ってもない考え方だが、はたしてそれでいいのだろうか?」

「実際、MMTの要点『1.インフレにならない限り、政府は必要なだけ通貨を印刷し、使っていい』は、

MMTはインフレを誘発して終えることを示唆している。

そのようにして、対外的な信用力の低下からインフレが来たときに、

国内だけで増税することはまったく効果がないばかりか、

国民の生活を破壊することにつながるはずだ

 

「上記、MMTの要点『3.インフレが発生したときは、政府の通貨発行量が多すぎることを示唆しているので、

そのときには税金を引き上げて資金を吸収する』が、考慮に値するものだとすれば、

現状の各国政府は大幅に増税すればいいことになる。

金融引き締めに加えての財政引き締めは、景気を失速させるだけでなく、

消費者にとってはインフレと、金利上昇、増税の三重苦となることを意味する」

参照:2022-02-21 07:38:50
ビットコインと通貨の価値
https://ameblo.jp/dealersweb-inc/entry-12728022703.html

<講師プロフィール>

矢口新(やぐち あらた)

1954年生まれ。
金融業界の第一線で30年以上にわたり活躍し続け、
プロディーラーにも師と仰がれる天才ディーラー。

東京・ニューヨーク、ロンドンと世界3大金融市場で活躍し、
さらには為替、債券、株のすべてに関わるという
非常に稀有なキャリアを持つ。

相場を動かすプロの裏の裏まで知り尽くしており、
投資を真剣に学びたいという意欲ある方々との交流にも熱心。

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