二者択一という不毛の選択:その1、金融政策
物価の急騰を受けて、
一部の国を除く世界中が金融引き締めに動いている。
米国を例に挙げると、
今年の3月から3回、計1.50%利上げした。
また、6月からは量的引き締めも開始した。
このことで、米経済が2四半期連続のマイナス成長に至ることを意味する
リセッションに陥るのではないかとの懸念が起きている。
中央銀行はインフレ抑制か、
景気後退回避かのどちらかを選ばねばならないと言われている。
2022年3月までの米連銀は、
インフレは一時的だとして抑制するには当たらないとし、
経済成長を優先してきた。つまり、金融緩和を続けてきた。
しかし、インフレ抑制か、景気後退回避かという二者択一は不毛の選択だ。
なぜなら、
インフレを放置することが、景気後退の原因をつくるからだ。
1例を挙げれば、米連銀が金融引き締めに入る前の、2022年3月の新築住宅販売は前月比8.6%減、前年比12.6%減の年率76万3000戸だった。販売価格中央値は前年比+21.4%の43万6700ドルだ。
これは新築住宅の価格が2021年の同時期から2割以上も上昇したために、購入できる層が縮小したことを強く示唆している。
4月の新築住宅販売は前月比16.6%減、前年比26.9%減とさらに落ち込んだ。一方で、販売価格中央値は前年比+19.6%の45万0600ドルとさらに値上がりした。
つまり、価格の上昇が販売減に直結した。インフレが景気を後退させたのだ。
値上がりの理由はいくつかある。1、当局が好んで理由に挙げる2月末に始まったウクライナ戦争。2、コロナ・パンデミックから続いているサプライチェーンの混乱。3、当局による大量の資金供給などだ。
この中で、値上がりが長期間続いているところから見て、最も大きな理由は当局の資金供給だ。米連銀はリーマンショック後から未曽有の資金供給を始め、コロナ・パンデミック以降には5兆ドル近く供給し、米政府はコロナ対策で2.3兆ドルを供給したとされる。
参照図01:世界のコロナ対策財政資金供給(出所:ハウマッチ・ネット)
これらの膨大な資金供給は随所でバブルを演出した。前述の米住宅市場はその一例だ。
ちなみに、バブルは資金供給の継続がなければ自律的に崩壊する。自律的と言うのは、外部の材料がなくても内部環境だけで完結するという意味だ。相場では、買ったもの、売ったものを手仕舞うポジション整理のことを言う。
例えば、100万円のものが500万円になると、買える人が減る。このことは、500万円になったものを売る時には、値上がりによって買える人が減っていることを意味する。売った人は500万円を手にするが、他に全く余裕がなければ、売買手数料や税金、生活費など様々な形で現金が減るので、500万円のものはもう買えない。つまり、ここでも買える人が1人減ったことになる。
これは借入金による投資でも同様で、与信枠を限界まで使えば、それ以上には買えない。そして、借入金では金利がコストに加わることになる。
これは、500万円が、5億円に、5兆円にと値上がりして行けば、どんな相場でも、どこかの時点で新規で買える人がいなくなり、現状の参加者たちだけでその価格を支えているピークを迎えてしまうことを意味する。
そうなれば、たった1人の脱落者だけでも、バブル崩壊の口火を切ることができるのだ。誰も、その売りを受け止めることができないからだ。
この時点で、その売りを受け止め、あるいはさらに値上がりさせることができるのは、新たな資金が供給されることだけだ。それが起きたのが、リーマンショック後やコロナ・パンデミック後の、大量の資金供給だったのだ。
財政面では、度重なる財政資金の出動で累積赤字が膨れ上がり、何度も資金供給を繰り返す余裕が失われてきている。
参照図02:米財政収支の推移(出所:DATALAB)
また、米連銀の資産は資金供給により、リーマンショック前から10倍以上に膨らんだ。これらの資金は住宅市場だけでなく、債券や株式、暗号資産など、至る所で価格の値上がりを生んだ。つまり、バブルやインフレの主因は、米連銀などの当局が作ってきたのだ。
そして、それがその高値ゆえに、資金供給の継続がなければ自律的に崩壊しようとしていた。そこに米連銀は利上げで保有コストを引き上げ、その資産を売ることで、逆に資金の回収を図っている。これは、「売り浴びせ」に相当する。
金融政策はインフレ抑制か、景気後退回避かという二者択一ではない。インフレは景気後退で終わるので、インフレの芽を摘むことが重要なのだ。
マイナス金利政策はもちろんのこと、ほぼゼロ金利政策も異常な政策だ。中央銀行の資産が2年で倍増する資金供給も異常な政策だ。これがインフレやバブルに繋がったことは、金融市場に長くいた人間にとっては、驚くには当たらないことなのだ。
今となっては、金融の正常化を急ぐことだ。価格の急落は、それによって買える人々が増えることを鑑みれば、必ずしも悪いことでも、恐れることでもない。それでも被害者は出るが、そこを最低限で支えるのが政治の役割かと思う。
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