ユーロドルのパリティ割れと、ドル円
ユーロが2002年12月以来となるドルとのパリティ(等価)を割りこんだ。
最安値は2000年10月の約0.82ドル。
この時は、統一通貨に対する信認が問われる形となっていた。
もっとも、ユーロの紙幣と硬貨が一般に流通するようになったのは
2002年1月以降で、1999年のユーロ誕生以降それまでは
国境をまたぐ電子決済に使われていただけだった。
ユーロは世界の準備通貨としてはドルに次ぎ、
また1日当たり6兆6000億ドルが取引される外為市場においては、
ユーロドルの売買高が最も大きい。
ちなみに、2番目がドル円。
3番目がポンドドルと、すべてにドルが絡んでいる。
ユーロドルがここまで売られてきた(ユーロ安ドル高)の要因の1つはウクライナ戦争だ。資源国である米国が、資源高や武器売却の恩恵を受けるのに対し、欧州は資源高がコスト上昇に繋がり、武器売却の恩恵も一部だけに限られるからだ。また、欧州はロシアの攻撃を受けるリスクもある。
ユーロとドルの金利差拡大も大きな要因だ、米連銀が2022年3月に利上げを開始し、積極的な利上げ姿勢を見せているのに対し、欧州中銀は今月21日になって利上げを始める予定で、その利上げ姿勢も、ウクライナ戦争による景気後退懸念を受けて比較的慎重だ。一部の大手銀行は、早ければ第3四半期にもユーロ圏がリセッションに突入すると予想している。
ウクライナ戦争が早期に終息する見通しは少なく、仮に早めに終戦を迎えたとしても、米側とロシア側の分断は今後長く続く見通しだ。
分断が続けば、ロシア産の安いエネルギーを享受できるのは、中国やインドなどの、ロシアを非難しない国々に限られ、西欧は遠くて高い米国産などのエネルギー依存を高めることになる。
このことは、欧州の景気後退懸念が長引くことを示唆し、利上げも限定的となることを意味する。つまり、米ドルとの金利差拡大は続き、ユーロドルの下押し圧力がつづくことを示唆している。
また、ドイツが30年来の貿易赤字に転落したことも、ドル買いユーロ売りの実需が出る可能性を示唆し、ユーロドルの下押し圧力となる。
こうしたユーロドルの低下は、過去最高の伸びとなっている物価上昇率がさらに上振れすることも示唆している。
これらのユーロ安要因とインフレ懸念は、そっくりそのまま、円安要因と日本のインフレ懸念にも当て嵌まる。ロシアの攻撃を受けるリスクも同様だ。つまり、同じような要因で、ドル円が上昇することを示唆している。
一方、ユーロは、財政基盤の弱い加盟国と強い加盟国の借り入れコストに格差が生じるという、ユーロ圏特有の域内分断化のリスクも抱えている。
これまで域内格差が顕在化してこなかったのは、欧州中銀が超緩和的な金融政策を続けてきたことが大きいが、その政策はこの7月21日に転換点を迎える。
また、欧州各国はウクライナ戦争への対応を巡って、国内の政治情勢が分断されつつあり、14日の取引では、イタリアで起きつつある政治的危機がさらにユーロの足を引っ張った。
これらが統一通貨に対する信認が問われる形となると、過去最安値の0.82ドルが視野に入ってくる可能性も、全くないとは言えなくなってくる。
こうしたウクライナ戦争への対応を巡る国内の政治的な分断は、メディアの報道姿勢が影響してか、日本では幸か不幸か見られていない。
これらの要因は、さらなるユーロドル安を暗示している。一方で、通貨安には輸出品価格を引き下げ、ギリシャやスペインなどの観光地に域外から観光客を呼び寄せる一助になる。
また、ユーロの売りポジションが歴史的な高水準に迫りつつあるので、ユーロの急落時には投機ポジションによる自律反発が期待できる。
これはドル円ではそれほど期待できない。ドル円は急騰の度に、そこそこ利益が確定されてきており、金利差拡大でドル保有のスプレッド獲得が大きくなっていることを鑑みれば、円に弱気だとも言い切れないほどのポジションの偏りだ。
この点では、ドル円の上昇余地はまだまだ大きいと言える。
<講師プロフィール>
矢口新(やぐち あらた)
1954年生まれ。
金融業界の第一線で30年以上にわたり活躍し続け、
プロディーラーにも師と仰がれる天才ディーラー。
東京・ニューヨーク、ロンドンと世界3大金融市場で活躍し、
さらには為替、債券、株のすべてに関わるという
非常に稀有なキャリアを持つ。
相場を動かすプロの裏の裏まで知り尽くしており、
投資を真剣に学びたいという意欲ある方々との交流にも熱心。
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