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禁止はできるが、促進の強制はできない

中国政府は1979年以降、
1組の夫婦に子供は1人だけ持てるとする「ひとりっこ政策」を実施した。

かつて銀座の飲み屋にその頃に生まれたという中国から来た女性がいたが、
同年輩の初対面の人との会話に、「きょうだいは何人?」という話題はないと言っていた。

その代わり彼らには6ポケットがあると言われ、
両親と、それぞれの両親の6人から、ふんだんに与えられて育ったと言う。

その結果、当然のことながら少子高齢化が加速したため、
2016年にはすべての夫婦が2人まで子を持つことを認める「ふたりっこ政策」に転換した。

さらに2021年からは3人目までの出産を認める
「さんにんっこ政策」や、「出生率を上げる政策の促進」などを相次いで打ち出している

しかし、2021年に生まれた新生児は1062万人で、
5年連続の減少となった。

「ふたりっこ政策」に転換した2016年の新生児の数は1867万人だったので、
出産を奨励しても、新生児の数は4割以上も減った。

現在、若者の失業率は20%を超え、
大学を出てからも職を探す若者であふれている。

「自分すら養えないのに、どうやって家庭を築き、子供を持てるのか」という状態で、
「生めよ、増やせよ」と言われても、難しいのではないか?

「ひとりっこ政策」は、2人以上の子供を持つことを、罰則まで設けて禁止するものだった。隠し子はそれなりにいたようだが、共産党幹部の隠し子でもない限り、それらの子供は無国籍となった。禁止は権力で押し付けることが出来るが、心から従っている訳ではない。

一方、「ロバを水辺に連れていけるが、水を飲ませることはできない」と言う。人間相手でも、禁止や誘導はできても、促進の強要はできない。3人目までの出産を認めても、出生率を上げる政策を促進しても、新生児の数は急減している。そこに、上からの強権で行う政治や経済の限界があるのだ。

日本も他人事ではない。独身者が増える一方だ。結婚しても子供は少ない。家庭や家族に対する若者の考え方の変化もあると言うが、考え方は環境によって変化する。「自分を養うだけで精一杯なのに、どうやって家庭を築くのか」。「子育てや教育を考えると、子供は2人まで」と、考え方を変えている。

生きていくためには環境に順応する必要がある。家庭を築くことが生きていく妨げとなり、子供を多く持つことが家族全員の生活を圧迫することになるのなら、考え方を変える必要がある。

100年程前には世界のどこでも当たり前だったように、子供を労働力と見なし、子沢山を子宝だとする考え方もある。あるいは、風の吹くまま気の向くままに、後先など考えずに今を生きるという考え方もある。どう環境に順応していくかは様々だ。国全体としては、そうした多様性に富む方が、存続の可能性を高めるのではないか?

ヒトより先に国が来るのはおかしい。国の存続を支えるための、「ひとりっこ政策」や「生めよ、増やせよ」は本末転倒だ。中国だけではない。日本政府もどこまでヒトのことを思っているか?

ロバの喉は乾いている。それでもロバが水を飲まないのは、水辺に連れて行った人間を信用していないからだ。ロバのことを思って水を飲ませようとしているのではない。もっとこき使うために、自分たちの利益のために、ロバを生かせようとしていると感じているのだ。

<講師プロフィール>

矢口新(やぐち あらた)

1954年生まれ。
金融業界の第一線で30年以上にわたり活躍し続け、
プロディーラーにも師と仰がれる天才ディーラー。

東京・ニューヨーク、ロンドンと世界3大金融市場で活躍し、
さらには為替、債券、株のすべてに関わるという
非常に稀有なキャリアを持つ。

相場を動かすプロの裏の裏まで知り尽くしており、
投資を真剣に学びたいという意欲ある方々との交流にも熱心。

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