日銀の政策「正常化」は行き詰まりの露呈
12月20日の金融政策決定会合で、日銀は政策金利こそ-0.10%に据え置いたが、長期金利の変動許容上限を0.25%から0.5%に拡大した。一方で、長期国債の購入額を月7.3兆円から月9兆円程度に増額した。
このことを、日銀黒田総裁は「利上げではない」とし、「市場機能を改善することで金融緩和効果をより円滑に波及させる趣旨だ」と語った。
変動許容上限の拡大を市場は「とうとう来たか」と受け止めた。そして、その日のうちに10年国債の利回りは0.25%から0.40%にまで上昇した。10年国債の利回り0.25%の上限は、既に限界の兆候が見られていたからだ。
日銀は上限0.25%で無制限に買い入れる「指し値オペ」を連日行ってきた。それにも拘わらず、10年国債の終値利回りは今年3月28日に0.263%を付けたのを皮切りに、その後、何度も0.25%を上回って引けてきた。ちなみに、12月19日の10年国債の終値利回りは0.282%で、政策発表後の20日には0.432%に急上昇した。
また、12月13日から19日までは10年国債の利回りを9年国債の利回りが上回り、15日から19日までは8年国債の利回りも10年国債を上回っていた。それらが20日の終値ではすべての利回りが上昇する形で「正常化」し、残存期間の短いものから長いものへと利回りが高くなる順イールドに戻った。
利回り曲線(イールドカーブ)は通常、短いものから長いものへと利回りが高くなる。残存期間が長い債券ほど元本が返ってくるまでの不確実性が高まり、投資家が高い利回りを要求するからだ。インフレ環境下ではなおさらだ。
ハイパーインフレに見舞われた世界が金融の正常化を進め金利が上昇する中、日銀だけはマイナス金利を維持し、10年国債を0.25%で買い続けることにより、低利回りを維持してきた。しかし、周辺銘柄の利回りの上昇までは食い止めることが出来ないできた。
そのことは、国債利回りを基準にした上乗せ金利で資金を調達する社債市場に歪みをつくることになる。10年社債の発行が他の年限よりも割高となってしまうのだ。また、その10年債でも日銀が購入している指標銘柄が、放置されている周辺銘柄よりも割高となる。
これを取り除くのが、黒田氏が言及した「市場機能を改善する」という意味で、20日には2年、5年、20年の新発国債を対象に、「指し値オペ」を実施すると述べた。つまり、日銀が金融引き締めに転じようとしたわけではない。市場や世界に逆行する低利回りの維持ができなくなっただけなのだ。
しかし、長期金利の変動許容上限0.25%が限界を迎えている兆候はその他にもあった。12月1日の入札当日に新発10年国債(368回債)を日銀が大量に買い取ったことだ。0.25%の指し値オペで、発行額2.8兆円の半分以上の1.5兆円を日銀が買い取ることになったのだ。
9月末の日銀の国債保有額は535兆6187億円で、保有割合は残高の50.3%と過去最大となっている。これは財務省の借金の半分以上を日銀が輪転機を回して供給していることを意味する。しかし、これまでは日銀が発行された国債をその日のうちに買い入れたことはなかった。それは誰の目にもあからさまな「財政ファイナンス」となるからだ。そうした財政ファイナンスは違法行為だからだ。
日本政府の公的債務はGDP比で世界最大だ。国民の年金を政府の資産と見なして債務と相殺した純債務でも、レバノンやスーダンよりも悪く、世界最大だ。
それでも、2021年度までは1997年3月から一度も0.5%を超えたことがない超低金利政策のおかげで利払い費が低下してきたが、2022年度はとうとう上昇に転じた。これは今のままでも年間約1兆円ペースで増え続ける見通しだが、残高が1000兆円を超えているので、金利が1%上昇しただけで、10兆円も急増することになる。
参照図00:国債残高・金利・利払い費の推移(出所:財務省)
2023年度の予算は22年度から6兆7836億円増えて、114兆3800億円と過去最大を更新する。国債費は0.9兆円の増額だが、これは利上げを全く織り込んでいない。
日本の野放図な財政を支えてきた金融政策が限界を迎えている。仮に金利が上昇するようなことがあれば、それでなくても需要不足の日本経済の失速は避けられない。また、16.5万社を超える「ゾンビ企業」が更に増え、破綻に繋がる企業も増える。それでも、輸入に依存しているエネルギー価格や食品価格が下がらなければインフレは収まらない。
また、円金利が多少上がっても、海外金利との金利差が縮まるとは限らない。仮に多少縮まったとしても、絶対的な金利差があれば円安要因は残る。貿易赤字が続けば、円安要因はなくならない。円安になれば、円金利が多少上がっても、インフレは収まらない。日銀は利上げも利下げもできなくなった。
また、日銀が買い集めたETFをどうするのかという問題もある。日銀は20年数年前に国内金融機関の経営不安が強まった際、金融機関から保有株式の買い入れを行い、その後売却を開始した。日銀が市場の混乱を避けるために同程度のペースでETFを売却する場合、保有分全てを処分するのに150年かかるとJPモルガンのアナリストらは試算しているという。
20数年続けた超低金利政策、アベノミクス下の10年も立たないうちに保有資産を数倍に膨張させ、GDPの1.3倍にも資金供給を膨らませた異次元緩和が限界を迎えているのに、日銀は正常化すらできないでいる。
そして、税収60兆円台でしかない予算から利払い費が増え続けていく段階に入ってきた。MMTでもあるまいし、これまで財政資金は借金すればなんとかなると緩んできた政策の付けを、来年度からも国民は支払わされることになる。
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