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国際化とスイスの銀行

私が外為ディーラーとして勤めていた頃のUBSの正式名称は
スイスユニオン銀行(Union Bank of Switzerland)だった。

設立は1862年、スイス最大の銀行で、
私が勤めていた頃は、JPモルガン、ドイツ銀行と並び、
主要格付け機関のすべてからトリプルAを得ていた世界に3つしかない銀行の1つだった。

それがスイス第3位の銀行だったスイス銀行を事実上吸収し、UBSグループとなった。
合併後当時の総資産は世界第2位の規模。

世界でトリプルAの銀行は、
2011年頃に当時唯一だったオランダのラボバンクが格下げされたのを最後になくなった。

あえてトリプルAの銀行だったと述べたのには理由がある。
それは調達資金のコストに現れるからだ。

通常、信用ビジネスである金融機関の格付けは、
製造業の格付けよりも厳しいとされる。

そのため、金融機関であったGEキャピタルは、
製造業ゼネラルエレクトリック(GE)のトリプルAの格付けを利用した低利で資金調達することで大きな利益を上げてきたと、
ウォールストリート・ジャーナルのGE担当ジャーナリスト、トーマス・グリタ氏はその著書「GE帝国盛衰史」で述べている。

そのGEも2011年頃にトリプルAから格下げされた。
GEは後日、ダウ平均からも外された。

金融機関にとっての信用格付けは大きな意味がある。

製造業や金融以外のサービス業は多かれ少なかれ個性的で、
調達資金のコストを大きく超える付加価値を付けることが可能だ。

一方、金融機関にとってはコスト以上の個性を示すことが難しい。

他より低利で調達できるということは、
金融ビジネスでは絶大な競争力を得ることを意味する。

基本的に規模で勝負するビジネスなので、
少しの利ザヤの違いが大きな差を生むことにもなる。

世界に3つしかないトリプルAの銀行だということは、
最も低利で資金調達できることなので、世界の他の銀行のどこに銀行間貸し出しをしても利益が出ることを意味する。

事業会社に同じ利率で貸し出せば、他行より多くの利益が出せることを意味する。

利益を度外視しても損失を出さない貸し出しで競合他社に負けることは、他のトリプルAの2行以外にはないことになる。

真偽のほどは不明だが、スイスユニオン銀行にはJPモルガンやドイツ銀行にはない低利の巨額資金があると言われていた。

金利を全く支払わないでいる休眠口座の資金だ。
それは第二次世界大戦終了までに預けられたナチスの預金と、
ナチスの犠牲者となったユダヤ人たちの預金だと言われていた。それに加えて、実態の分からない秘密口座が多くあるとされていた。

劇画のゴルゴ13が指定していたようなスイスの銀行口座だ。

2021年時点でも、スイスが管理している海外資産は2兆6000億ドルと、英国や米国をしのいで世界最大規模だった。

しかし近年はシンガポールやルクセンブルクが競合相手として急速に台頭してきていた。

永世中立国として独自の地位を築いてきたスイスは、世界で最も国際的でありながら、最も個性的でもあったのだ。

国際化進展による1つの世界は、国境の概念が薄れる友好的で平和な世界になると思われていた。

例えば、ユーロ圏は通貨を統一し、国境間を自由に行き来できるようにすることで、
参加欧州諸国を共通の利害の下に一体化させ、便利でより安全なものとなった。

とはいえ、通貨金融政策の統一と、統一の財政規律を課することによる財政政策の制約は、
各国の事情を顧みない硬直的な経済政策を強いることとなった。

結果的に、ユーロ圏諸国の貧富格差が拡大した。

貧しくなった南欧諸国は、ユーロ圏のお荷物だとされ、
その原因を南欧の国民性にあるとまで見なされるようになった。

つまり、共通利害の下での一体化のために、多様性の事実上の否定に繋がることになったのだ。

また、例えば日本にとっての国際化は、いわゆる「外圧」の連続だった。

ノーと言えない日本、米大統領との親密さを誇示して自己の正当化を図る歴代の首相たち。

そうした米国主導の国際化により、日本経済は1997年度を境にその成長を止めた世界で唯一の国となった。

そして、ここでも停滞の原因を日本人の国民性にあると信じ込まされるようになった。

日本への外圧が強まったのは、米国の対日貿易赤字が膨大となった頃からだ。

また、「ジャパン・アズ・ナンバー1」として米国を超える経済だと意識され、
加えて、1989年の日本企業による「米国の魂」だとも目されていたロックフェラー・センターの買収が危機感をより高めた。

同時期に起きたソ連邦の崩壊は、同盟国としての日本の重要性を押し下げただけでなく、当面の唯一のライバルともなったのだ。

一方、世界でほぼ唯一、
長期間にわたってどの陣営にも属さないとするスイスもまた、進展する国際化の中で、
その独自性が問題とされるようになった。

1988年にはスイス第2の銀行クレディスイスが、米国投資銀行の名門ファーストボストンを買収することで、
米国を刺激した。そして、上記のように1990年代に金融機関のトリプルAに残っていたのは、米銀では1つだけ、
世界最多であった日本勢は全滅し、ドイツとスイスから各1行だけとなった。スイス経済は小さく、
米経済のライバルとはなり得ないが、スイスの銀行は立派な米銀のライバルだったのだ。

2007年のサブプライム・ショック、2008年のリーマン・ショックで、米経済と米銀は大きな痛手を受けた。

同じような住宅バブルがあった英国やスペイン、アイルランドも痛手を受けた。ドイツも2009年は落ち込んだ。

一方で、スイスは2009年のドル建てGDPこそ前年比2%減だったものの、10年は8%増、11年は20%増と急回復した。

米国からの外圧によって、2013年にスイスの銀行の独自性であり、強みでもあった「秘密主義」が撤廃に追い込まれた。

そして、2010年以降は世界の主要国で最も安定していた米国がほぼゼロ金利政策を続けたことで、2014年6月にはECBがマイナス金利に導入に追い込まれた。

次に、ユーロとスイスフランのレート変動を避ける目的からスイスも同年12月にマイナス金利を導入したことで、
スイスを含む欧州の銀行は銀行ビジネスからの安定収入が得られなくなり、リスクテイクを加速させることになった。

リスクテイクは諸刃の剣だ。
高収益の期待がある反面、最悪の場合は破綻する。
私が勤めていたソロモンブラザーズも破綻した。

リスクテイクのプロだけを集めたロングターム・キャピタルマネジメントも破綻した。
米投資銀行の名門で当時世界一の金融機関だったリーマンブラザーズも破綻した。これらを含め、
大きな破綻には不正に繋がるスキャンダルか、そもそも扱う資金が巨額過ぎて身動きが取れなくなるなどという共通点があるものだが、
手堅いとされていた欧州の銀行には少しばかり高いハードルだった可能性がある。

とはいえ、マイナス金利政策の下では、手堅いビジネスだけでは時間の問題で追い詰められるのではないだろうか。

2023年3月19日、UBSがクレディスイス買収で合意した。
スイス政府とスイス国立銀行が膨大な支援を約束した。スイス政府が用意する納税者負担は最大1090億スイスフランで、
国民1人当たり1万2500スイスフラン(約180万円)の負担にもなるという。

新UBSの総資産は約1.7兆ドルで、スイスの年間経済生産量(2020年時点0.75兆ドル)の2倍以上になる。
ウォールストリート・ジャーナルなどは、「支援が必要なのはクレディスイスだけではない。スイス自体にも必要だ」と取り上げた。

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