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金融・財政正常化での投資先

こんばんは、矢口新です。

米連銀は政策金利を5.25%ー5.50%に据え置いた。

一方で、
バランスシートの縮小ペースを減速させると発表した。

6月1日から月間で最大600億ドルの
米国債の縮小ペースを250億ドルに引き下げる。

一方、
住宅ローン担保証券の縮小ペースは月間350億ドルで維持する。

パウエル議長はインフレ懸念継続を理由に、
利下げの時期が後ずれすると述べた。

実際、当初の見込みからは既に後ずれしている。

昨年には市場は今年最大5回の利下げを見込んでいたが、
現状では最大でも3回で、ゼロとの見通しも増えてきた。

一方で、保有する債券の満期到来分の一部について再投資を行わないという方法で、
2022年6月から進めてきたバランスシートの縮小ペースを減速させる。

保有する債券が満期を迎えると投資した資金が米連銀に返ってくるが、
これは市場から資金を吸収したことに繋がるので、
再投資しなければ「金融引き締め」の効果を持つ。

つまり、米連銀は22年3月に始めた政策金利引き上げという
「質的引き締め」と同時に、同年6月からは「量的引き締め」も行ってきた。

そして、「質的引き締め」は23年7月に終了したが、
その後も続けてきた「量的引き締め」をこの6月からは減速させるとしたのだ。

減速させるのは、利下げの後ずれと、量的引き締めの継続で、
景気後退懸念が出てきたことを示唆している。

そうした急激な金融引き締めを行ってきた主な理由はインフレだ。2022年6月の消費者物価指数は前年比+9.1%もあった。そうした物価上昇の大きな要因は米連銀自身が作っていた。例えば、サブプライムショック以前には5.25%だった政策金利をほぼゼロに引き下げ、0.8兆ドルだったバランスシートを22年3月末には9.4兆ドルにまで膨らませたからだ。その結果、米連銀のバランスシートはGDP比5.8%から36.3%にまで膨張した。

インフレを受けて、政策金利は5.25%にまで戻ったが、バランスシートを当時の(健全だと見なされていたGDP比5.8%)レベルにまで戻すには、1.5兆ドルにしなければならない。そこで、今後「質的緩和(利下げ)」に移行しても「量的引き締め」は継続させるのだが、過去には健全だとされていたレベルにバランスシートを戻すことはもう望めないと言っていいだろう。

つまり、植田日銀が黒田日銀とアベノミクスの後始末に苦闘しているように、パウエル議長もバーナンキ議長、イエレン議長、バイデン政権、そして自身の政策の後始末に苦闘しているのだ。そしてそれを正常化と呼んでいるように、世界はコロナ対策を含めここ十数年の異常だった政策の後始末に苦闘している。

一方で、中央銀行と政府による大量の資金供給と景気刺激策は、株式を含む資産価値の上昇を生んだ。そこで現在、投資家たちの意見が割れているのは、金融政策や財政政策の正常化後も資産価値が上げ続けるのかどうかだ。とはいえ、世界中で資金が減少していくのなら、すべての資産価値が上昇することは考えられない。つまり、今後の投資の焦点は、これまでのように現金の減価を防ぐために兎に角何かに投資することではなく、現金価値回復の中でどこに投資するかということなのだ。

仮に、中央銀行や政府が目論見通りに正常化を続けることができ、市場に出回る現金が減少しその価値が上がるのならば、利子を生まない金や仮想通貨が今の価値を維持することは難しい。一方、現在の利回りは将来には大きな価値を持つようになるので、確定利付き証券(債券)が魅力的となる。

債券投資に関すれば、日本国債は論外だ。何しろ日本は利下げ待ちどころか、利上げ途上だからだ。そこで、利回り、信用力、流動性の点から、米国債が最も魅力的だと言える。米連銀の利下げが確実で、時間の問題でしかないのなら、米国債の絶好の買い場が年内にも訪れることになる。

しかし、先週、それなりに説得力のある異論を目にした。ブルームバーグの日本語版から引用する。

(部分引用ここから、URLまで)

グロース氏は5月2日に発表した展望リポートの中で、トータルリターン戦略のコンセプトを作り出した当時と違い、今の利回りはかなり低く、値上がりする余地が小さくなっていると指摘。現在の10年債利回りは約4.6%だが、ピークだった1981年には16%近かった。

10年債利回りは債券強気派の低下期待を裏切り、向こう1年で5%を超えて上昇する可能性が高いと、グロース氏は予測。米政府が市場に国債を溢(あふ)れさせているからだという。米政府は借り入れ中毒になっており、経済の活況を維持するために国債の発行残高を年間で純額2兆ドル増やさざるを得なくなっていると、同氏は指摘した。

「利回り低下を主張する人々は、国債の容赦ない供給増加と果てしない価格下落に立ち向かわなくてはならない」とグロース氏。「トータルリターンは死んだ。債券ファンドを買ってはならない」と、2019年に資産運用から退いた同氏は述べた。

参照:「トータルリターンは死んだ」、生みの親グロース氏が債券戦略に宣告
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-05-02/SCV3LRT1UM0W00

(ビル)グロース氏とはかつて「債券王」と呼ばれていた人で、私なども一時憧れていた。上記引用文の要点は3つだ。

1、米国債価格は下落する。供給増を市場が消化できないためと、信用力の低下。
2、値上がりしたとしても上昇余地が少なく、過去の最大時の3分の1もない。
3、利子があっても値下がりが大きいのでトータルリターンはマイナスになる。

1は、米連銀の金融正常化が進んだとしても、米政府の財政正常化は不可能に近いことをも示唆している。これは私も同意見だ。ちなみに、米連銀の資産も、米政府の負債も、日銀の資産や日本政府の負債に比べれば、はるかに健全だ。これは、金融・財政の正常化には日米ともに抜本的な改革が必要なことを示唆している。

私見では、貧富格差を拡大させてきた税制を改革するしかない。富裕層がその資金力でロビー活動を行い、そうした改革を妨げているのは議会制民主主義の大弱点であると言える。カネで票が動き、国を動かすことができることを、議会制民主主義の各国では、国内外の富裕層だけでなく、他国や宗教団体を含む利権勢力が利用しているのが現状だ。

2は比較の問題なので、債券投資が機能しなくなる意味ではない。

3は、債券ファンドではなく、直接に現物債券を購入し、償還するまで保有すれば問題とはならない。

ここで現物債投資と債券ファンド投資の違いを明確にしておく。

現物債は確定利付き商品なので、定期的な利子と償還時の元本が保証されている。もっとも発行体が破産すれば投資資金の全額回収が難しくなるが、それでも返済順位は高い。また、格付けなどで破綻リスクが数値化され、利回りにも反映されている。

一方、債券ファンドは現物債をパッケージ化して運用するので確定利付き商品ではなく、定期的な利子も償還時元本の保証もない。現物債の値上がり、値下がりを加味したトータルリターンとなっている。グロース氏が、「トータルリターンは死んだ。債券ファンドを買ってはならない」とするのは、値下がりを見越しているからだ。

米連銀の利下げが確実で、時間の問題でしかないのなら、米国債の絶好の買い場が年内にも訪れる。しかし、米国債の供給増を市場が消化できず、信用力の低下を懸念するのならば、投資適格社債の中から、そのリスクを排除できる銘柄を選べばいい。

また、米国債で1年以内に償還されるTビルには値下がりリスクがなく、利回りは5%を超えている。例えば、Tビル1年物を950ドル以下で購入すれば、1年後には1000ドルで返ってくる。

株式は、各国ともに、これまで以上に銘柄選択が重要となるだろう。金融・財政正常化の難しさは、地政学リスクの高まりをも示唆している。それは、軍需関連や物流の需要と、エネルギー供給の不安定化を示唆している。また、地球温暖化という悪い面と、AIの進展という良い面の両方が示唆しているのはエネルギー需要の増大だ。その方向の投資なら、正常化の成否に関わらず、機能するのではないか?

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