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金利差と円キャリートレード

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こんにちは、矢口新です。

1981年初頭以来、為替や債券、
株式といった相場に携わってきた私は、
1990年の拙著で「価格変動の本質」と題した理論を提唱し、
後にタペストリー第1理論と名付けた。

相場での出合は、
必ず売買1セットでしか成立しないため、
価格変動は量で起きるのではなく、
保有期間で起きるとした。
仮に大量の売買100セットの出合があったとして、
そのうち1セットでも売り手が買い戻せば価格は上昇し、
買い手が売り戻せば価格は下落するというものだ。

そして、大量でも比較的短期間で
売買を終える短期筋がボラティリティをつくり、
少量でも持ち続ける長期投資家、
あるいは売り切り買い切りの実需がトレンドをつくるとして、
タペストリー第2理論と名付けた。

タペストリー理論によれば、
円の売り切りとなる日本の貿易赤字は円安圧力となる。
貿易赤字はエネルギー価格の値上がりだけでも拡大傾向だ。
また、円と外貨の金利差では高い方に資金が流れるので、
現状の日米金利差では円安圧力が継続する。
一方、短期筋の動向は
短期間のボラティリティに繋がるだけで、
トレンドには関係がない。

加えて、安倍元政権以降拡大を続け、
今やデジタル赤字よりも
大きな第二次所得収支の
赤字(海外への円資金譲渡)は円安圧力で、
石破元政権が確約した
5500億ドルの対米投資も円安圧力となる。
その意味で、
長期的な円安トレンドは今のままでは動かないと見ている。

ところで、円売り外貨買いで
ある円キャリートレードの巻き戻しが起きれば、
反対売買により円高になる。
円キャリーは、円売りを長く保有するトレードなので、
ここまでの円安を支えてきた可能性がある。
その金額が巨大であれば、
その巻き戻しで向かう円高の幅も大きくなる。
問題はその大きさだ。

ここに1つの見方をご紹介する。

「このドラマは、この30年近くにわたり
世界で最も好まれてきた低コストの資金調達エンジン、
いわゆる円キャリートレードをめぐって繰り広げられている。
円はこれまで、世界のリスクテイクを陰で支えてきた。
トレーダーたちは円を借り入れて、
ブラジル国債からシリコンバレーのテクノロジー株まで、
あらゆる資産への投資に回してきた。
だが、18日の利上げによって
日本の政策金利が中立金利に近づくなか、
超低金利の円を借りて
外国で高い利回りを追い求める取引は計算が狂い始めている。

この変化を受けて、
市場は真の意味で分岐点に立たされている。
日銀が初めて政策金利を
ゼロに引き下げた1999年以降、
日本は世界最大の債権国としての地位を高めた。
キャリートレードが全開になったのは、
日銀が量的緩和を大幅に加速させた
2013年のことである。
日銀は国債や株式を大量に買い入れ、
2018年にはバランスシートが
日本の550兆円規模(当時)の
国内総生産(GDP)を上回る規模に膨れ上がった。
主要7カ国(G7)で初めてのことだ。

この間に日本で導入されたのは
マイナス金利や量的・質的金融緩和のほか、
長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)などだ。
これらは日本国債の利回りを抑え込み、
債券市場の「反乱」を防ぐための政策ツールであり、
しばらくは機能した。いま、そのツケが回ってきている。
今月、日本の10年物国債の利回りは3%に達し、
30年ぶりの高さを記録した。

GDP比で200%を超える政府債務を抱える国にとって、
この圧力はけっして軽視できるものではない。
日本は先進国で債務負担が最も重いばかりか、
人口減少のペースもとりわけ速い。
さらに、米国とイスラエルが始めた
イランとの武力紛争を背景とする油価高騰の影響も、
とくに受けやすい立場にある。
エネルギーのほとんどを輸入に頼り、
そのエネルギーが値上がりし、
円安のため輸入コストがさらにかさむというのは、
痛みをともなう組み合わせだ。

そこに地政学的な別の文脈も加わる。
スコット・ベッセント米財務長官は
今年、日銀の植田和男総裁に対して
金融引き締めのペースを加速するよう促してきた。
ボスのドナルド・トランプ米大統領は、
米連邦準備制度理事会(FRB)に
利下げさせてドル安につなげることができていない。
そうしたなかで、
米政権にとって日銀の利上げ促進は一種の
『プランB』となっている。
米国の政策に直接触れることなく、
為替の力学を変えるための迂回策だ。

日銀が金利水準をゼロから
さらに遠ざけるにつれて、
円の流動性は着実に縮小していく。
その波紋は、ニューヨークからサンパウロ、
ロンドン、ムンバイ、シンガポール、ソウルにいたる
各地の株式、債券、商品、不動産などの
市場に及ぶことになる。
AI(人工知能)ラリーにけん引され、
資産価格はすでに
とんでもない高水準に押し上げられているため、
リスクは一段と大きくなっている。

音楽が止まりかけたとき、
耳を澄ましているのは日本だけではないだろう。」

参照:円キャリー時代の黄昏 日銀利上げで変わる世界の金融
https://forbesjapan.com/articles/detail/105271

円キャリーは、円売りを長く保有するトレードなので、
ここまでの円安を支えてきた可能性がある。
もっとも、長期にわたった円キャリーが終わるという、
このコラムの警鐘は、円高に向かうというよりは、
日本発の過剰流動性の終り、
世界的なバブルの崩壊を示唆している。

実際に、
AI関連のハイパースケーラーたちのインフラ投資額は、
計画通りに進めば米国史上最大のインフラ投資となる見込みだ。
これまでの最大は鉄道網の
年間GDP比2.24%、
次いで高速道路網の1.13%、
電信電話インターネット・ファイバー網の1.10%の
順だったとのことだが、
AIインフラは3.63%にもなる見込みだ。

先週、
カンザスシティー地区連銀のシュミッド総裁は
AI業界の企業や契約のネットワークが、
「大きすぎてつぶせない(too big to fail)」問題に
発展していないかを把握することが重要だと述べた。

中国の事情も似たようなものだ。
この7月に中国のスタートアップ企業
ムーンショットAIの「Kimi K3」の能力が
米最先端AIの能力に匹敵したことが話題となったが、
それはコンピューターの計算能力の劣勢を量で
補って達成できたと言える。
つまり、電力を含む膨大な資源と資金によって
達成できたものなのだ。
これは中国がAIを軍事覇権のために重要視しているだけでなく、
不動産に代わる大規模経済エンジンとしても
期待していることを示唆している。

これらのすべての投資基盤が、
円金利上昇で終わるのだろうか? 
いずれにせよ、
金利上昇は巨額の
有利子負債を抱えているところを中心に追い詰める。
また、覇権争いで生き残れるのは少数なので、
大勢からのために
設備投資を拡大したところは過剰設備を抱えることになる。

一方、円キャリートレードの巻き戻しは
円高にも結びつくが、
これまで何度か大きな巻き戻しが起きている。
私は日米金利差の逆転でも起きない限り、
円高トレンドに変わるほどではないと見ている。

ちなみに目先の円高は、
IMMの円先物が大きく買われているところから見て、
トランプ大統領の円安懸念と、
ベッセント財務長官による「強い円が望ましい」発言を受けた、
投機的な円買いだと見ていていいかも知れない。

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