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マイナスの価値

投資物件について割安や割高が語られるのは、
一定の価値基準というものがあるからだ。

例えば、企業の現状の株価をその収益という価値基準で語るのが
株価収益率(PER)で、それを業界や過去の平均と比較すれば、
割安なのか割高なのかが分かる。

また、
純資産という価値基準で語れば株価純資産倍率(PBR)となり、
同じように比較することで、割安なのか割高なのかが分かる。

債券では、利率と償還までの年月、
満期までの債務不履行や破綻といった可能性を見る信用リスクが債券そのものの価値で、
インフレ率と比較することで実質的な価値を語ることができる。

それを現状の債券価格と比較すれば、割安なのか割高なのかが分かる。
また、同種の債券と比較することでも、割安なのか割高なのかが分かる。

一方、美術品や宝石などのように一定の価値基準というものがないものは、
「価値が分かる」人たちだけが割安や割高を語ることができる。

コレクターズアイテムやトレカ、ファングッズなども、
「価値が分かる」人たち以外には、それが高いのか安いのかが分からない。

とはいえ、
何らかのプラスの価値があると言っていい。

しかし、保管費用など、持っているだけでコストを支払い続けるようなものは、
マイナスの価値になってしまう。

それでも値上がりすればコストなど問題にはならないが、
値上がりのない銀行預金で、利子よりも口座維持手数料や諸費用が高いものは
マイナスの価値だと言っていい。

ブロックチェーン(分散型台帳)上で認証される仮想通貨やNFTなどの暗号資産も、「価値が分かる」人たち以外には、それが高いのか安いのかが分からない。また、購入者たちが事実上の認証コスト(PCや電気代)を支払っているという意味では、マイナスの価値を抱えている。つまり、誰かが買い続けてくれない限り価格の上昇は見込めないが、誰かが買い続けることで認証コストが増えるのだ。

そうした暗号資産の象徴ともいえるビットコインの取引手数料が高騰しているという。5月上旬には一時30ドル超と平時の10倍近くに達し、以降も高い水準にあるようだ。また、取引承認に遅れが生じたり、送金に数時間かかったり、引き出しが一時停止されたりしている。

マイニングと呼ばれるビットコインの認証コストはビットコインで支払われる。ビットコインの価格が下がると、マイナーの収益が減り、場合によってはコスト割れになる。コスト割れになってまで他人の取引を認証する理由はないので、手数料を上げることになる。また、送金者などが速く取引を承認してもらうために高い手数料を提示すると、平均送金手数料が高くなるという悪循環が起きる。手数料の高止まりが続けば、国境を越えて送金する際の手数料が銀行よりも安いというビットコインの魅力のひとつが失われることになる。

ブロックチェーンで認証される暗号資産はマイナスの価値を抱えている。値上がり期待で参入する人たちがコストを負担しているが、マイナスサムのゲームなので、いつまで続くか分からない。そうなると、銀行口座が持てず、他に送金手段がないような人々だけがそのコストを負担することにもなるかも知れない。認証コスト(PCや電気代)が劇的に下がらないと、その手数料は高止まりすることになるだろう。

矢口新

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