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日銀の目論みとそのリスク

こんばんは、矢口新です。

日銀は12月19日の金融政策決定会合で、
現行の大規模金融緩和政策の継続を決めた。

マイナス0.1%の政策金利を続けるほか、
長期金利上限のめどを1.0%のままとする。

また、12兆円のETF購入枠などを含めた
量的緩和政策も現状維持とした。

一方で、市場の投機筋の多くは緩和解除に向けて、
日銀から何らかの示唆があると期待していたため、
日米金利差が縮小するとの思惑から、
円買い、日本株売りのポジションをつくっていた。

そして金融政策発表の結果に失望し、
円は売り戻され、日本株は買い戻されることになった。

一部では、日銀の行動は投機筋のみならず、
多くのエコノミストをも裏切ったとされている。

円安や物価動向から、
日銀の政策変更は必然だと見なされていたためだ。

しかし、日本経済や日本政府、
また日銀が置かれた状況を冷静に判断すれば、
日銀がおいそれとは金融正常化を進める訳にはいかないことが分かる。

日本経済の現状は、海外の動きに依存している。

政府・日銀の長年の望みだったインフレ率の高騰も、
また最近になって見られるその弊害からの鎮静化も、海外頼みが現実だ。

ここのところ好調な企業業績も、エネルギー高や海外金利高を背景とした円安と、海外金利高による金利収入と、インバウンド消費にその多くを依存している。つまり、日銀の政策とは関係がないところで動いている。

一方の国内要因は、日銀のGDPギャップが示すように需要は依然としてマイナスなうえ、政府によるコロナ対策の損失補填の終了で、倒産企業が増え始めている。また、株式市場では日本の年金や機関投資家が売り続けている。これは、日銀の緩和政策での支えが必要とされているところだ。

ここで金利を上げれば日本経済はどうなるか? 約19万社といわれている現状の金利水準でさえ借入金の利子が払えないゾンビ企業が、利上げによって破綻する。また、現状の低金利水準だからこそ利払いできているところが、ゾンビ企業の仲間入りをする。家計の多くもインフレに続く金利上昇には耐えられない。

日本政府もまた金利高には耐えられない。2024年度予算の国債費は過去最大の27兆円余りだったが、低利の借入れで残高を増やし続けてきた国債の利払い費が急増する局面を迎えている。1000兆円超える政府債務にとっては、1%の金利上昇ですら、10兆円の利払い負担増を示唆している。そして、国債費の急増は、他の歳出予算を大幅に削減するか、更に国債を増発して賄うことでしか債務不履行を逃れる術はない。

日銀もまた金利高では大きな重荷を背負うことになる。日銀は国債を超低利回り(超高価格)で買い支えてきたからだ。日銀9月末の国庫短期証券を除く国債・財投債の日銀の保有比率は53.86%となっているので、利上げによる国債価格の下落で最も損害を被るのが日銀だからだ。また、日銀は日本企業の最大の株主ともなっているので、ETF購入枠の縮小で、株式の売りを引き出すのも賢明な策だとは言い難い。

つまり、日本経済や日本政府、また日銀自身が置かれた状況を冷静に判断すれば、日銀がおいそれとは金融正常化を進める訳にはいかないのだ。

しかしその一方で、世界で唯一の異常な金融緩和をいつまでも続ける訳にもいかない。どこかで、日銀も金融政策を取り戻す必要があるのだ。

これまで、日本政府は財政赤字を出し続け、公的債務を増やし続け、それを日銀が買い支え続けてきたが、そのリスクはマイナス金利政策のおかげで何とか先送りできてきた。また、そうしたマイナス金利政策の威光は、かつては15年国債利回りにまで及んでいた。しかし、今は2年国債を超える利回りはすべてプラスだ。つまり、政府・日銀がマイナス金利を維持したくても、現実的な引き締めがもう来てしまっているのだ。

そして、日銀の国債保有が残高の半数を超えてしまったことが示唆しているのは、これまでの政策が物理的に続けられない限界が見えてきたことだ。

とはいえ、日本経済、日本政府、日銀自身の誰もが耐えられない金融正常化、金利上昇の口火を、日銀が率先して切るわけにもいかない。

日銀が少なくとも1997年以来行ってきたことは、超緩和的政策だけを続けてきたことだ。そうしたイージーマネーによるリスクの先送りが限界的となり、追い詰められた今となって、今更、金融政策の正常化を言い出すことは、自己の存在の完全否定に繋がりかねない。

今後の日銀のできることは、1、金融政策の事実上の放棄を続けること。2、上昇していく市場金利を追認して、政策金利を段階的にそれに合わせていくこと。3、それを言い換えや、言いくるめで、市場の投機筋やエコノミストたちを納得させることだろうか?

それは今の日銀が行っていることの延長線上にある。そうした「リスクの先送り」が抱えるリスクは、いずれ日本の信用リスクの崩壊に繋がるという懸念だろうか。

  • コメント ( 1 )

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  1. 石橋叩く

    日銀の金融緩和について述べてらっしゃる背景や理由は、
    相場を張っている投機家、あるいは不安を煽って稼ぐニセ
    のエコノミストの論説です。
    最先端でなくとも、ベン・バーナンキの理論やケインズの
    理論くらいをベースにして経済・金融を教えてください。

    ※国債は先進国では借り換え債が普通です。
    国債利払いはGDPの増加より率が低ければ何の心配も
    ありません。

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