ビットコインETFが誕生
こんばんは、矢口新です。
米SEC(証券取引委員会)が1月10日、
ビットコインの現物に投資するETF(市場に上場し、株式と同じように売買できる投資信託)を承認した。
11日から11銘柄の取引が始まり、
同日の売買代金は合わせて46億ドルと大商いとなったようだ。
そうした資金の流入は価格の押上効果を持つので、
当日のビットコイン価格は一時4万9000ドル前後と2年ぶりの高値まで上昇、
その後は4万5000ドル台にまで下落した。
この下落は、
これまでETF承認期待で買い進めてきた筋の利益確定売りだと見なせる。
一方、
ビットコイン以外にもETFの期待が見込める仮想通貨が連れ高となった。
SECは最大手の資産運用会社ブラックロックやフィデリティ、
アーク・インベストメンツなどが申請していたビットコインETFを承認したのに加え、
グレースケール・インベストメンツが求めていたビットコインで運用する未上場投資信託のETF転換も認めた。
11銘柄はニューヨーク証券取引所、
ナスダック、シカゴオプション取引所などに上場した。
これまでSECはビットコインなどの仮想通貨に否定的だった。
初のETF申請があった2013年以降、
20件以上の申請を却下してきた。ゲンスラー現委員長は、
仮想通貨を「不正が横行する業界」だと指摘し、
FTXやバイナンスなどその時点での最大手を、
巨額詐欺事件だとして告発してきた。
実際、
仮想通貨を巡る詐欺事件は枚挙に暇がないほどに多い。
それが承認に方針転換したのは、
上記グレースケールがビットコインで運用する未上場投信のETFへの転換を
SECが拒否したことを不服とする訴訟で、23年に敗訴した影響が大きいようだ。
SECが承認したことで、ビットコインETFは証券会社の証券口座を通じて株式や金、不動産などに投資するETFと同様に売買できるようになった。また、証券会社はSECの監督下にあり、仮に証券会社が破綻しても投資家の資産は分離勘定で保護されているため、ビットコインへの直接投資よりは安全性が高まったと言える。
とはいえ、ゲンスラー委員長はビットコインETFを承認する声明の中で「ビットコインは投機的で、マネーロンダリングや制裁回避、テロ資金調達などの非合法活動にも使われていることに注意してほしい。ビットコインを推奨したわけではない」と異例の注意喚起を行った。また、JPモルガン・チェースのダイモンCEOは23年12月12日の米議会で、ビットコインは実体経済との結び付きがなく、「詐欺であり、崩壊する」と語り、自分が当局者ならば禁止すると述べていた。
一方で、ビットコインは既に多くの政府当局やメディアが認知している。例えば、ウォールストリート・ジャーナルのポータルサイトの上段には、米株4主要指数、米10年国債、VIX、ゴールド、原油価格と並んで、ビットコインの価格情報が載っている。
また、エルサルバドルは2021年9月以来、ビットコインを同国の法定通貨として採用している。とはいえ、そのことでフィッチはエルサルバドルの格付けをB-から、CCCに引き下げた。ムーディーズも格下げし、ビットコイン利用を巡る懸念を表明した。また、IMFはエルサルバドルにビットコインを法定通貨として扱うことを止めるように勧告した。
ビットコインなどの仮想通貨の問題点に関しては、私も以前にコメントした。
参照:ビットコインと通貨の価値
https://ameblo.jp/dealersweb-inc/entry-12728022703.html
また、仮想通貨などのブロックチェーンは環境負荷が大きい。マイニングと呼ばれる取引の認証行為における電力消費が膨大だからだ。ビットコインだけでも23年12月時点での年間換算電力消費量が164TWhだとされ、ノルウェーやスウェーデン、パキスタンなどの電力消費量よりも大きい。つまり、地球温暖化を推進しているのだ。
そうした膨大な電気代を負担してもマイニングを行うのは報酬があるからだ。ブロック報酬は2009年にビットコインがローンチされたとき、マイナーはブロックごとに50ビットコインを受け取った。これが最初の報酬半減期だった12年には25に減少。16年には12.5に、20年には6.25に、そして24年4月頃と予測されている次の半減期には3.125に減る予定となっている。
半減期とは、マイナーたちが受け取る報酬を計画的に減らすことだ。報酬はビットコインの市場への供給を意味するので、供給過剰にならないようにするのが目的だという。21万ブロック取引ごとに半減期は訪れ、約4年に一度程度の頻度で供給鈍化が行われてきた。
このことは、ビットコイン価格の上昇は報酬価値の上昇を意味するので、マイニングが活発になり決済のスピードが増すが、価格が下落して電力や設備投資のコストを下回れば、最悪の場合にはマイニングが行われなくなることを示唆している。半減期と合わせて勘案すれば、仮想通貨の有効期間は限定されている。
そして、そうしたマイニングは設備投資、電力、労働力などのコストを実質的に誰かが負担することで支えられている。ブロックチェーン内部では生産が行われないので常に新規参入者による資金供給が必要なのだ。そうした新規参入者たちはまた、これまで膨大な詐欺コストも支えてきた。
一方で、半減期には供給ペースの減速(半減)が価格上昇を招くとされている。過去3回の半減期後には最高値を更新してきたからだ。そして、23年12月初頭の2022年4月以来の4万ドル超えは、ETFへの期待感に加えて、半減期が近いためだとも言われている。
米SECはビットコインETFを承認したが、日本の投資家が買えるようになったわけではなさそうだ。日本では仮想通貨が24年1月時点では投資信託に組み入れ可能な「特定資産」に入っていないために、国内ではビットコインのETF組成ができないからだ。
また、日本の特定資産に含まれないビットコインを組み入れた米国ETFも、外国投信として認められない可能性がある。私は個人投資家保護のためには、このまま認めない方が良いと思っている。
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