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日銀の金融政策正常化と、今後の懸念

こんばんは、矢口新です。

日銀は異次元緩和の修正を決めた。

日銀の政策目標である物価2%の持続的かつ
安定的な実現が見通せる状況に至ったと判断、
「これまでの大規模な緩和政策は役割を果たした」とした。

マイナス金利とイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)を解除、
「緩和的な環境を維持するのが大事だという点には留意しつつ、
普通の金融政策を行っていくことになる」とし、
今後は短期金利の操作が主たる政策手段となる。

具体的には日銀当座預金の超過準備に+0.1%の金利を付け、
この付利を指標に、政策金利とされる無担保コール翌日物金利を
0~+0.1%程度で推移するよう市場調節を行っていく。

また、長期国債の買い入れは、市場で不連続性が生じないようにと、
これまでと概ね同程度の金額(月間6兆円程度)で継続する。

一方で、長期金利が急速に上昇する場合には、
毎月の予定額にかかわらず、機動的に買い入れ額の増額や指し値オペ、
共通担保オペなどを実施するとした。

長期国債以外の資産買い入れのうち、
ETFやREITは新規の買い入れを終了する。

また、
CPや社債については買い入れ額を段階的に減額し、
1年後をめどに買い入れを終了するとした。

今年の春季労使交渉については「現時点の結果を見ると、
昨年に続きしっかりとした賃上げが実現する可能性は高い」と指摘した。

また、日銀の本支店による企業へのヒアリング情報でも、
幅広い企業で賃上げの動きが続いていることがうかがえるとし、
「物価上昇と賃金の好循環が生まれつつある」とした。

一方で日銀は、景気の現状判断について
「一部に弱めの動きも見られるが、緩やかに回復している」として、
1月の展望リポートで示していた「緩やかに回復している」との表現から後退させ、
生産や個人消費の判断を引き下げた。

つまり、日銀は「生産や個人消費の判断を引き下げ」ながらも、「金融引き締め」に転じることになった。このことに矛盾を指摘するコメントも目にしたが、私見では、それでも「正常化」は英断だったと見ている。なぜなら、国民も日銀も現実世界に生きているのだから、永遠に「異次元」な金融政策を続けることは事実上不可能だからだ。

現状でも、日銀の国債保有額は異次元緩和以前と比べて6倍以上となり、発行残高の半分以上を占めている。それでも「市場で不連続性が生じないようにと」国債購入は継続するようだが、年間70兆円を超える購入額というのは、2023年度の国債発行額約36兆円の約2倍のペースなのだ。これは、いずれは残高のほとんどを日銀が保有することに繋がり、政府予算の不足を今後も日銀が補うという「異常事態」の継続を意味する。その意味では、今回の正常化は「矛盾どころか、まだ道半ば」なのだ。

また、自由主義国としながら、中央銀行が民間企業の最大の株主となっているような「異常な環境」もどこかで修正する必要があったのだ。

異次元緩和を主導した人々は「マインドに訴えかける」としていた。国民のマインドが後ろ向きなので、前向きにしてあげようと「異次元なサポート」を行った。

ところが、国民が後ろ向きになったのは増税や社会保険料の値上げというマインド以外のところにあったので、異次元サポートは空振りに近かった。今回、「物価上昇と賃金の好循環が生まれつつある」となったのは、主に海外要因で、国内は「生産や個人消費の判断を引き下げ」のままなのだ。

とはいえ、「物価上昇と賃金の好循環が生まれつつある」のは事実だ。それなのに、この状態に至ってでも世界でたった1カ国だけの「異次元なサポート」が必要だというのなら、国民のマインドは後ろ向きにならざるを得ない。このことは、正常化の時期を間違えたというのならば、早過ぎたのではなく、遅すぎたことを示唆している。1月の展望リポートでは「緩やかに回復している」と、今よりも良かったのだから。

継続不能な異次元緩和の正常化にようやく踏み切ったという意味で、今回の日銀の判断は英断だったと言える。とはいえ、利上げは日本経済に試練を与えることになる。そうした懸念を箇条書きにする。

1、1000兆円を超える政府債務の返済や借り換えのコストが上がる。単純に言って1%上げるだけで、10兆円以上の負担増となる。政府の借金は問題にならないとの説は詭弁だ。実際に国債費は歳出の多くを占めていて、他の予算を圧迫している。岸田政権の子育て支援も、筋違いの社会保険料の値上げで賄うしかないような有様だ。

2、金利上昇は債券価格の値下がりを意味するので、日銀をはじめとする国債保有者たちの評価損が拡大、財務が悪化する。

3、住宅ローン金利の上昇は不動産市場が冷え込む可能性を高める。

4、マイナス金利政策のもとでも増え続けた債務金利が支払えないゾンビ企業の破綻が増える。同時にゾンビ企業に転落する企業が急増する。

5、金利差縮小で円高になれば、企業の海外収益や、外債投資の妙味が損なわれる。輸出企業の競争力も低下する。

また、ETF購入の停止は、株価の下支えがなくなることを意味する。

一方で、金利上昇には恩恵もある。

1、金利収入が増える。

2、債券利回りの上昇により、債券投資の魅力が復活する。

3、銀行の収益が海外の金利高で急回復したように、貸し出しからより多くの利益が得られるようになる。

また、金利差縮小で円安の勢いが弱まればインフレが沈静化し、家計の助けとなる。日本から海外へ向かう旅行者にとっても好ましいが、一方で、訪日客にとっては購買力の低下要因ともなる。

もっとも、円のトレンドを決めるのは金利差だけではない。むしろ、日本の貿易収支の方がより大きな意味を持っている。貿易赤字は長期にわたる円安要因なのだ。また、金利差が縮まっても日本の政策金利が大きく上昇する環境にはなく、長期金利が急上昇してしまうような環境は、日本が売られてしまうような環境で、円高には繋がらない。つまり、日銀の金融政策正常化ぐらいでは、円安トレンドは止められないと見ている。

私見では、日本経済の1989年度の税制改革以来の落ち込みを、日銀の金融政策が「異次元」レベルで支えてきたことで、辛うじてやって来られたと見ている。異次元緩和がなければ、消費税を8%に、10%に上げることは出来なかった。逆に言えば、消費増税が優先的な政策だったので、異次元緩和が不可欠だったのだ。

その金融政策が役割を終え正常化に向かった今、日本経済が回復するために何よりも必要としているのは、日本経済が強かった1989年度以前の税制に戻すことではないだろうか?

その点に関しては、以下の著書で詳しく述べている。
参照:日本が幸せになれるシステム・65のグラフデータで学ぶ、年金・医療制度の守り方

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