スクウェアというポジションはない
From 矢口新
「スクウェアというポジションはない」という言葉がある。
これは「スクウェアはポジションではない」という意味ではない。
相場でスクウェアとはゼロという意味なので、ゼロというポジションは持たない、
いわば「いつもロングかショートのポジションを持ち、相場を張り続けている」という意味なのだ。
常に機会利益を追い求めているというわけだ。
似ているようで違うのが「アゲインストというポジションはない」という言葉だ。
これは「損切りを早めに行っているので、評価損が膨らんだ状態にいることはない」という意味だ。
ゼロというポジションがないのは、ファンドマネジャーと呼ばれる人たちにとっては当たり前のことだ。
例えば、投信委託の運用者が1000億円という額の運用を任されたなら、
彼はその資金を何らかの形で運用しなければならない。
キャッシュ、債券、株式など、組み入れ比率をどう変化させようと、
彼は常に相場を張った状態にあると言える。
ポジションをスクウェアにするためには、
その1000億円をファンドの購入者にお返しするしかないのだ。
また委託された資金をキャッシュのままで置いておくということは、どこに投資してもリターンが得られない、
つまり相場の大幅な下落を見越していることになるので、
ディーラーがポジション枠いっぱいまでショートを張っている状態に匹敵する。
投資していれば、より多くの金利や配当が得られることを考慮すれば、
相当に居心地の悪い状態であるに違いない。
ファンドマネジャーにとっての「実質的なスクウェア」とは、
同業者間の平均的なキャッシュポジションでいることなのだ。
またインデックスと競いあうファンドでは、
インデックスそのままの組み入れ比率がスクウェアだと言える。
ただし、それでは必然的にインデックスに負けることになる。
債券ファンドではデュレーションが自然減する(時間の経過により、残存期間が減少し、償還を迎えるものもでる)ためでもあるが、
少なくともファンドが受け取るフィーの部分は、インデックス以上に稼がなければならないからだ。
例えば、フィーが1%の場合、インデックスよりも1%高い利回りを上げなければ、
インデックス並のリターンを顧客には渡せない。
したがって、インデックスファンドは必ずインデックスのリターンを下回るか、
インデックスを逸脱するリスクを負っているかのどちらかだと言える。
換言すれば、フィーの高いインデックスファンドは、
単にフィーが高いだけか、より大きな逸脱リスクを負っているかだけなのだ。
その意味では、インデックスファンドはフィーの安いところを選ぶのが賢明だと言える。
ETFなら、フィーが安い上に、
売買のタイミングを自分だけで決められるので、なおのこといい。
ディーラーでも株式や債券の商品勘定担当者は、
その商品の性質上、また在庫管理という意識があるため、
ほとんど常にロングポジションを持っている。
加えてマーケットメーカーとしての彼らは、顧客の売買動向によって、
絶えず自己のポジションが変化するので、実質的にスクウェアのままでいる時間というのはないと言ってもいい。
つまり「スクウェアというポジションはない」という言葉は、
スクウェアというポジションを持つことが許されるプロップディーラーなどが、
相場を張ることに消極的になりがちなとき、自らを戒め、機会利益を追求してゆく場合に使われるのだ。
*注:プロップディーラー(proprietary dealer)会社の資金を、ディーラー個人の裁量だけで運用することを許されたディーラー)
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