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米外交戦略が歴史的な敗北を迎えた日

こんばんは、矢口新です。

2023年8月24日は、
第二次世界大戦後の米外交戦略が歴史的な敗北を迎えた日として
記憶されるかも知れない。

これが大局的な米外交戦略の崩壊に繋がらなくても、
少なくとも1つの局面での大敗北で、
世界秩序の枠組みを考え直す必要が出てきた可能性を持つものだ。

これは米国追随を外交の主軸に置いている
日本外交の敗北をも意味している。

「ならずもの国家」という表現をご記憶だろう。

ウィキペディアによれば、「1990年代末においてアメリカ政策担当者は、
イラン、イラク、アフガニスタン、リビア及び北朝鮮を
『ならずもの国家』と認識していた」。

「2017年9月にアメリカ大統領のドナルド・トランプは
国連総会でイラン・ベネズエラ・北朝鮮・シリアを『ならずもの国家』と非難し、
同年12月に発表した国家安全保障戦略とそれに合わせた演説でもイランと北朝鮮を『ならずもの国家』とした。

アメリカの政治学者であるイアン・ブレマーは、
ウラジーミル・プーチンによるウクライナ侵攻が
ロシアを『ならずもの国家』にしたと述べている」。

日本のメディアの報道は、基本的にこのラベル付けに沿ったものなので、
こうした国々が「ならずもの国家」と呼ばれることに
違和感を持つ人は少ないかも知れない。

そして、日本の報道だけを見ている限り、
それらの国々は自らが持つ内部矛盾で徐々に崩壊しつつあり、
米国が先導する西側諸国の制裁がそれを早めるように促しているという認識だったのではないだろうか?

また、それらの国々は基本的に孤立していないとしても、
少なくとも世界の少数派であると思っていたかも知れない。

しかし、世界人口の3分の2以上の人々が「ならずもの国家」のグループに属しているとすれば、そして、その勢力を拡大しているとすれば、3分の1以下の人々だけで決めつけている「ならずもの国家」の意味を考え直すしかないとも言えるのだ。

そうした事実をはっきりと突き付けられたのが、先週の木曜日だった。

同日、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)首脳会議は、アルゼンチン、エジプト、イラン、エチオピア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の6カ国が、2024年1月1日からBRICSに加わると発表した。

南アフリカ政府筋によると、40カ国以上がBRICS加盟に関心を示しており、22カ国が正式に加盟を希望したとされる。

その伏線はあった。例えば、インドはウクライナ戦争後にロシアからの原油輸入を急増させ、ロシアの原油輸出のほぼゼロから過半数にまで急増させた。

また、かつては親米国家であったサウジアラビアが、2023年になって米国が制裁しているイランと国交を回復した。同じく米国が制裁しているシリアがアラブ連盟に再加盟した。先週にはエジプトが、米国が要請していたウクライナへの武器援助を断った。

このことは、BRICSのブラジル、インド、中国、南アフリカが、「ならずもの国家」となったロシアを見捨てるどころか、元祖「ならずもの国家」ともいえるイランまで仲間として迎えたことを示している。アラブ諸国はシリアまで受け入れた。

これは世界の11カ国、加盟希望を含めれば50カ国以上、人口の3分の2以上が「ならずもの国家」は自分たちの仲間であると宣言したことに等しい。つまり、米外交戦略を完全否定したことを意味する。

もっとも、これらの国々が米国と敵対するという意味ではない。例えば、インドは日米豪と軍事的な枠組みクワッドを提携し、中国の軍事的な脅威に備えている。また、米国とはIPEF(インド太平洋経済枠組み)を提携し、経済連携を深めている。IPEFには、日米豪韓の他、ニュージーランド、フィジーと、アセアンから7カ国が参加している。

このクワッドは2017年に正式発足していたが、IPEFは2021年10月なので、米国はインドのロシア制裁破りを黙認したことになる。しかし今回、インドはロシアのみならず、イランとの連携さえ深めたのだ。

これを一部の識者が指摘しているような、米側、中ロ側どっちつかずの「コウモリ外交」だと見ると、大勢を見誤る。

何故ならそれは、世界は対立する2つの勢力に2分されていて、どちらか一方に従うしか選択肢がないという見方だからだ。また、双方のリーダー国らは絶対的な力を持っているので、その他の諸国は多少の不満を抑えてでも従う必要があるという主従関係を前提とした見方だからだ。

しかし、インドもサウジアラビアも、あるいはトルコも独立国で、従属国ではない。また、特にインドは世界でのその存在感を着実に高めてきている。

例えばインドは8月23日に、その無人探査機を月の南極付近に着陸させることを世界で初めて成功した。日本は先を越された。月の他の地域には既に米ロ中が到達しているが、太陽の反対側にある月の南極には大量の氷があるとされ、今後の月の有人探査や、他の太陽系への進出の足がかりになるとされている。インドはもはやどちらかの顔色を伺ってしか発言できないような国ではないのだ。

これで、BRICSグループは世界人口の3分の2以上を占め、石油生産の大半を占め、月開発でも4分の3を占めることになった。このことは、日米が継続しているロシア制裁やイラン制裁などが、事実上、世界の少数派による分断化政策になりかねないことを示唆しているのだ。

私はこれまで、ソ連、ロシアの歴史や西側メディアの報道、オリバー・ストーンのドキュメンタリー映画、遠藤誉氏のコラムなどを根拠に、ウクライナ戦争はバイデン政権がロシアを追い詰めることで挑発し、プーチン政権が乗ったものだと繰り返し述べてきた。兄弟国に攻め入ったプーチンを許しがたいとしつつも、バイデンに煽られて自国民に犠牲を強いているゼレンスキーのような政治家は不必要だとも述べてきた。実際のところ、ウクライナへの武器支援は、ロシア人だけでなく、ウクライナ人の命も奪っている。

BRICSの拡大は、そうした見方が世界では主流だった可能性を示唆している。世界の大半はもはや米国を恐れなくなって来ているのだ。それがウクライナ戦争後に顕在化し始めたのだ。

私は、ブラジルやロシア、インド、中国、南アフリカの政府も、アルゼンチン、エジプト、イラン、エチオピア、サウジアラビア、UAEの政府も、それぞれに問題の多い政府だと認識している。しかし、西側諸国に属している私が残念なのは、西側諸国の政府もまたそれぞれに問題の多い政府なのだ。そして、世界人口の大半は、むしろBRICS側であることだ。

BRICSの拡大はバイデン政権の外交の敗北を意味しているが、それでも中ロの勝利を意味するとは言えない。BRICS諸国も、今度加盟する諸国もそれぞれが敵対してきた関係でもあるからだ。いわば、それ以上の勢力に対抗するために、呉越が同舟に乗ったのだ。米国がそうさせたのだとも言える。

メンバーを見る限り、BRICSの結合は緩い。緩いがより強大な力に対しては、発言力が増すことになる。今後の世界情勢を鑑みれば、同盟国に強い犠牲を強いる米国追随の外交を考え直す必要があるかも知れない。日米安全保障条約やクワッドを維持したままで、BRICSへの加盟申請も、日本外交の選択肢として浮上したのではないか?

  • コメント ( 1 )

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  1. Kantikusanjin

    漸くこういう意見を述べる人が出てきたか。同感です。ドルの基軸通貨が変われようとしていると思われます。貿易における通貨の使用割合の統計を
    折っていく必要が出てきたと認識しています。(どこで調べれば良いかを知りませんが)

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